5兆円がまた消えた
また5兆円が消えた。国民年金などの積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が今年4月からたった3カ月間で、5兆円もの運用損を出したのである。英国の欧州連合(EU)離脱で株価が急落したのが原因だ。GPIFは昨年度も5兆円の運用損を出したばかり。国内や国外の株式での運用比率を高めた安倍政権の政策が完全に裏目に出ている。
●年金をジェットコースター運用
お金には二種類ある。損してなくなってもいいお金と、決して無くしてはならないお金である。お年寄りの老後を保障する年金は、我々庶民にとってはいわば命綱。決して、なくしてはいけないお金に属する。安倍政権はそれを知らない。
確かに安倍政権が主張するようにGPIFは損ばかりしているわけではない。おととしまでは利益の方が大きく、総額では38兆円のプラスである。ただ、だからといって問題がないとは言えない。ジェットコースターのように儲けたり、損したりするようなお金の運用は、年金のように決して損してはならない性格のお金にはそぐわないのだ。
なのにアベノミクスの効果を水増ししてみせたいがために、ルールを変更してまで年金をリスク市場に投入する。その無謀さ、思慮の浅さが問題なのである。
●運用損、公表は選挙の後
不可思議なのは自民党が15年度の運用損の正式な公表を7月29日まで先延ばしにしていることだ。例年ならGPIFの運用結果は7月の上旬に公表している。「こんなに得をした」と吹聴して回っている。今回はわざわざ1カ月近くもずらし、参議院選挙の後に振り替えている。
おかしいではないか。仮に15年度もプラスがでていたら、公表は選挙の後だっただろうか。作為的に選挙の後にずらしたと考えるのが自然だ。
憲法改正にしても安保法案にしても、この政権、かなりおかしい。これほどまでに赤裸々に国民を愚弄した政権はかつてなかった。この政権を勝たしてしまったら、庶民はおろかだと認めることになる。 (了)
200円カレーと5兆円
新潟市に本社を置く「原価率研究所」。この会社の売りは税込み1皿200円のカレーライスだ。年初にオープンした東京1号店には行列ができるという。漠然とした将来への不安を拭いきれないビジネスマンは生活防衛にやっきだ。そんな庶民を尻目に「株で5兆円もスッてしまった人がいる」というから驚きだ。いったい誰?
●年金5兆円が消失
答えを明かしてしまおう。その人とはGPIF、すなわち年金積立金管理運用独立行政法人だ。6月30日の運用委員会で2015年度の公的年金積立金の運用成績を厚生労働省に報告したところ、5兆円を超える運用損が発生したという。
「5兆円なんて随分、景気のいい話だ」と笑ってはいられない。なぜなら、このお金、国民年金と厚生年金の積立金だからだ。国民が老後に必要な、どうしてもなくてはならないお金が、5兆円も消失してしまったのだ。見過ごしていいはずはない。どうしてこうなった。
まず、抑えておかなければならないのがGPIFが運用する積立金の規模だ。ざっと140兆円。日本の一般会計税収(2016年度=57兆6000億円)の2倍強にあたる。これだけのお金をGPIFは株式のほか、国債、外国株などで運用しているが、運用しているお金が年金であることから、これまで政府は運用益よりも安定性を重視してきた。変動幅の大きい日本株や外国株ではなく、利回りは低くても安定している国債などに比重を置いてきたのだ。
ところがだ。安倍政権がこれを一気に切り替えた。利回りが低い代わりにリスクも低い国内債券の比率を60%から35%にまで引き下げ、その一方で、株式での運用の比率をこれまでの2倍の50%にまで引き上げたのだ。大量の年金マネーが株式市場になだれ込んだのである。
年金マネーは株式市場で「クジラ」と呼ばれ、その流入は大いに歓迎された。株価上昇を下支えどころかけん引役となり、それがアベノミクスの成果としてもてはやされた。しかし、それもつかの間。昨年8月の、人民元の切り下げを受けた世界同時株安「チャイナ・ショック」の影響で、巨額の損失を出してしまった。ここに今後、英国の欧州連合(EU)離脱問題が追い打ちをかけ、損失はさらに拡大していくことだろう。
●アベノミクスのウソを暴け
アベノミクスの正体とは、とどのつまりが「円安と株髙」。結局それは国民のお金を使って演出されたに過ぎない。日本の経済が世界と無縁であるはずもなく、お金を無理に注入して底上げされたニセモノ相場は、中国や英国、欧州連合(EU)などが揺らぐたびに、震え上がる。皮肉にもそれはアベノミクスが標榜するグローバル化が、進めば進むほど直接的になる。
この5兆円の巨額損失は、アベノミクスのウソを見破る入り口となる。人様のお金を拝借し、それを使って自分の成果を演出するなど、なんと姑息なことか。国民はこの事実を見逃してはならない。櫛名田姫がまたアベノミクスという大蛇(オロチ)に食われたのである。5兆円も。さあ、どうする。アベノミクスはこれを反省することはない。株式市場に刺激を与えるため、さらにニューマネーを投入する政策をとるだろう。それを許すのか。見逃せば、すべてを食わせてしまうことになる。(了)