琴言譚®︎[きんげんたん]

今、救世主なら語る

炭素減らして放射能漏れの愚

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バカにしてる――。そうでなければ国民を無視している。6月9日。経済産業省が国のエネルギー基本計画に将来の原子力発電所の新増設の必要性などを明記する方針であることが明かになった。その前々日、茨城県大洗町日本原子力研究開発機構で大量のプルトニウムが漏れ出す事故があったにもかかわらずだ。日本の最高峰の原子力技術を持つ原研で信じられないミスがあったその直後に、原発の増設を発表するとは、国民をバカにするにもほどがある。

 

●2万超ベクレルのプルトニウム
「真剣に反省し、手順を考え直すべきだ」。7日。原研の事故を受け原子力規制委員会の田中俊一委員長はこうコメントした。もっともだ。ウランプルトニウムが入った保管容器から放射性物質が漏れたのだ。5人の作業員の中で最も多い人の肺からは2万2000ベクレルのプルトニウムが検出された。国内最悪の内部被曝である。5人はそのまま医療機関に搬送されたが、これだけの被爆があれば健康に影響がないはずはない。「5年、10年すればそれが顕在化する可能性がある」というが、そんな生易しいものであるはずはないことくらい素人でも分かる。
 事故は初歩的なミスだった。保管容器の内部の状況を確認するため、蓋を留める6本のボルトのうち4本を外したところでなかのビニール袋が膨らみ、それでもなお残りの2本を外したため、ビニール袋が破裂した。異変を感じた段階で作業をストップしておけば、事故は防げた可能性が高い。残念なミスだ。
本来、このようなミスは起こりえない。しかし、起きた。つまり、事故は常に起きるのだ。「人間はミスを犯す動物」。これが基本だ。なのに本来起こるべきでない事故は、起こらないものと考え、原発を増設するなどもってのほかだ。

 

●米国抜きのパリ協定に拘泥(こうでい)
経産省の理屈は原発増設の理由を「地球温暖化対策の新枠組みである『パリ協定』を受けた計画」と説明、温暖化ガスを2050年までに80%削減するには原発の増設が不可避だと主張するが、これもおかしい。パリ協定など6月1日にトランプ大統領が、ホワイトハウスで声明を読み上げ、離脱すると表明したばかりではないか。米国抜きのパリ協定などなんの拘束力もない。わざわざ形骸化したパリ協定を引き合いに持ち出し、そのために原発を増やすなど、これまたセンスがない。
そもそもトランプ氏が指摘するように温暖化ガスと地球温暖化の因果関係は不透明な部分も多い。仮に温暖化がガスのせいだとしても、それを抑えるために放射能漏れを定期的に起こす原発を回すのは本末転倒だ。温暖化ガスと放射能のどちらが地球環境に悪影響を与えているのか、少し考えれば分かりそうなものだ。
今、政府は国民の声を聞く耳を失っている。これだけ原発リスクが赤裸々になるなかで、あえてそれに挑戦するように原発推進路線を打ち立てる。国民不在の国づくりなどあるはずはない。このタイミングで原発推進とはあまりに惚(ぼ)けた阿呆(あほう)ではないか。     (了)

 

今度は野村不動産ですか

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話が違うではないか。日本郵政だ。「経営の効率化が遅い」「グローバル化が進んでいない」。だから、プロが稼げる体質に転換するのではなかったのか。なのに儲けるどころか、2017年3月期の連結最終損益は400億円の赤字に転落した。2007年の郵政民営化以来、初の赤字だというが、事は国民の財産の話である。「こんなこともあるさ」ではすまされない。


●ドブに捨てた4000億円
「過去のレガシーコスト(負の遺産)を一気に断ち切る」――。4月25日の日本郵政の記者会見。長門正貢社長の言葉は何だか勇ましいが、こんな言葉を田舎の老人たちが理解できるだろうか。いいことなのか、悪いことなのか。それすら分からない。結論を先に言おう。とんでもないことだ。国民の資産を4000億円もドブに捨てたのだ。まず国民に詫びろ。
ことの発端は2015年、日本郵便を通じてオーストラリアの物流子会社トール・ホールディングスを6200億円で買収したこと。当時の社長は東芝出身の西室泰三氏で時価総額の1・5倍の価格で買収した。「少し高かった」と長門氏は言うが、その出所はゆうちょ銀行とかんぽ生命の含み益だ。いわば庶民が託したお金を回して蓄えたお金を「まんまと外資にさらわれた」のだ。「少し高かった」どころの話ではない。
今回はそのとんでもない割高な買い物のツケを一気に払った。本来なら20年かけて償却するはずだったトールのブランド価値、つまり「のれん代」を一括で支払った。だから赤字になったのだ。ただ、それだけのことだ。20年ローンで買ったバカ高い買い物のツケを1回払いで支払った。それを「レガシーコストを断ち切る」と見栄を切ってみせた、それ以上の意味はない。
それにしても自分たちで作った借金を国民のお金で精算するとはいったいどういう了見か。長門氏は「責任をとって」6カ月間、20%の役員報酬を返上するというが、例え1カ月の給与が500万円としても、1カ月で100万円。その6カ月分で600万円。個人としては大きなお金だが、あれだけ「リスクが高い」とされたオーストラリアの物流会社を高値づかみし、4000億円をもの損を出しておきながら600万円の減給でカタがつけられるはずはない。ことは国民のお金の問題なのだ。

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●まだまだ買う
ところが、長門氏はまだまだ買うという。今、着手しているのは野村不動産ホールディングス(HD)の買収だ。いったいいくらになるのか、その詳細は明らかになっていないが、1000億円や2000億円の単位ではすまない買い物になることだけは間違いない。そもそも野村不動産HDなど株価は高いが会社にはみるべき資産など何もない。これといったオフィスビルも商業施設ももたない。あえていうなら東芝不動産だ。東芝の経営が厳しくなったおりに、取得したもので、これとてピカピカの資産を持っているわけではない。それなのに不動産に手を出してどうする。日本郵政の手に負える代物ではない。
長門社長は「マネーが不動産に向かっているリスクがこの業界にはある。その点を十分に勘案して分析しないと危ない」というが、この言葉の意味もまたよくわからない。「マイナス金利だからなかなか儲けられない。そう考えると不動産部門は比較的、儲けられる。他のみんなもお金を不動産に投資して儲けている。だから日本郵政も、不動産に投資して、そこできっちりと儲けないと、稼ぎ損なう。稼ぎ損なったら大変だから野村不動産を買う」とそういいたいのだろうか。それなら、そう言葉でいうべきだ。金融のプロのように振る舞いながら、難解な言葉で庶民をけむに巻くのは許されない。なぜなら、日本郵政は一般の民間企業とは違うからだ。日本郵政にかかわる庶民にきちんと分かる言葉、丁寧に説明する責任があるのだ。ステークホルダーは庶民だ。投資家ではない。
それはそれとして、このご時世で野村不動産の買収とは「筋の悪い投資」ではある。「プラウド」に代表されるマンション事業も表面はよくても内情は火の車。会社は認めないが、在庫はつみあがり、裏では値引き販売のラッシュを続けている。おそらく長門氏はそれも知らないはずだ。不勉強を難解な言葉で糊塗※(こと)し、庶民の金をドブに捨て続けることだけはご勘弁願いたい。(了)

※【糊塗】(こと)…一時しのぎにごまかすこと。その場をとりつくろうこと。 「うわべを-する」 

 

日本郵政が踏んだ東芝の轍(てつ)

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日本郵政が大変だ。2015年に買収したオーストラリアの物流会社の業績が振るわず17年3月期の連結決算で数千億円規模の損失を計上するという。場合によっては最終利益のかなりの部分が吹き飛びかねない。民間から人材を招聘(しょうへい)、その揚げ句の巨額赤字は単なる経営判断のミスでは済ませられない。ことは国家の問題なのである。
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毎日新聞日本郵政グループの業績推移」より
日本郵政が巨額損失
問題のオーストラリアの物流会社とは「トール・ホールディングス」。オーストリアでは最大の物流会社で2015年、6200億円もの巨費を投じて買収した。民営化していなければとても考えられない大型買収で、当時は利益率が低い国内の郵便事業を補完するための攻めのM&A(合併・買収)とされた。
 皮肉なことに当時の社長は西室泰三社長、東芝の元社長である。買収を発表した2015年2月の時点で「トール・ホールディングスは事業を補完できる最高のパートナー」と自画自賛、得意の絶頂にあったが、それがまるで噓のよう。わずか2年あまりで巨額損失の計上を迫られることになった。
 それにしても、「大枚はたいて買ったはいいが、蓋を開ければ経営を揺るがしかねない、とんだ金食い虫だった……」とは、どこかで聞いたような話ではないか。そう、西室氏の出身母体である東芝だ。世界の原発ビジネスを牛耳ろうと社運をかけて傘下に収めたウエスチング・ハウス(WH)に完全に経営をむしばまれてしまった東芝の二の舞を、日本郵便が演じてしまったのである。

 
※2017年3月14日 東芝の綱川 智(つなかわ さとし)社長【写真】

●ウエスチング・ハウスの二の舞
 そもそも最大手とはいえオーストラリアの物流会社に6200億円とは「あまりにも高い買い物」という声は当時からあった。鉄鉱石など資源安を背景としオーストラリア経済の低迷で、その高値づかみを修正せざるを得なくなったわけだが、これも全く東芝のWH買収と同じ構図である。
 ただ、東芝日本郵便が違うのは、東芝は倒産しても国民は悲しみはしても困りはしないが、日本郵便が揺らげば大変な痛手を被るということだ。つまり、国富が痛むのである。いくらインターネット時代だとはいえ、郵便事業は日本になくてはならない大切なサービス。都会に出た一人息子を心配する田舎の母親に、息災であることを知らせる唯一の手段なのだ。

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●国民はただ泣く
 この日本列島の動脈を痛めてはならない。泥船の原発企業に社運をかける巨大M&A(合併・買収)をしかけるようなセンスのない東芝程度が、手を触れてはならない国の宝なのだ。1民間企業の経営者の蛮勇に翻弄されてはならない。
 なのにこの国はそれを許した。推奨すらした。民間企業の出身者に経営をゆだねることこそ、グローバル化の流れにそった最善の方策だと言い続けた。それがこの結果だ。
いったい東芝の西室氏は責任をとってくれるのか。3000億円、場合によってはもっと膨らむ可能性がある損失を東芝や西室氏が補塡できはしない。結局、そのツケは国民に回る。そして、国民が泣くのである。(了)

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※(参考)西室泰三(にしむろ たいぞう)氏 経歴

誕生日:1935年12月19日
年齢:81歳
出身地:山梨県都留市
出身校:慶應義塾大学経済学部
職業:実業家

経歴
2000年6月東芝代表取締役 取締役会長
2005年6月相談役。
2005年6月株式会社東京証券取引所取締役会長
2010年6月東京証券取引所取締役会長を退任
2010年11月慶應義塾評議員会議長(任期:4年)
2013年6月日本郵政取締役兼代表執行役社長
2015年レジオン・ドヌール勲章オフィシエ受章
2015年4月ゆうちょ銀行取締役兼代表執行役社長
2015年7月東芝不正会計処理問題が発覚
2016年2月検査入院開始
2016年3月日本郵政代表執行役社長を退任。東芝相談役を退任し新設の名誉顧問に就任
2016年6月日本郵政取締役、日本郵便取締役、ゆうちょ銀行取締役、かんぽ生命取締役、各任期満了退任

 

サムライ・ジャパンが泣いている

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日本が跪(ひざまづ)いた。国連本部で始まった核兵器を法的に禁止する「核兵器禁止条約」の制定交渉への参加を見送ったのだ。核武装を強化する方針の米トランプ政権に配慮、核兵器廃絶に向けた活動を自ら放棄するこの判断は、日本が米国に追従するだけの主張なき国であることの証左にほかならない。
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核兵器禁止条約、交渉「不参加」
3月31日、核兵器の非人道性を訴え法的に使用を禁止する「核兵器禁止条約」制定に向けた国連本部での初交渉が3月31日、終了した。100カ国以上が核兵器の使用や備蓄、配備の禁止について議論し、次回の6~7月の交渉で条約文を採択するメドがたったというのに、この晴れがましい舞台に日本の姿はなかった。日本の被爆者や市民団体の関係者220人以上が参加し、核廃絶の必要性を主張したにもかかわらず、そこに肝心の日本の政府関係者がいない。不自然以外の何ものでもないではないか。

  

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核兵器禁止条約の国際会議…不参加の日本政府席に、 「あなたがここにいてくれたら いいのに」 と書かれた、平和の折鶴が置かれていた。

 

●重大な判断ミス
 世界で唯一の被爆国である日本が核兵器の廃絶を叫ぶのは当たり前の行為である。戦争を悔(く)い、核兵器の恐ろしさを世界に訴えるのは日本の権利であり義務ですらある。なのに日本は交渉に参加しなかった。これは重大な日本の政治判断の誤ちである。

核兵器国と非核兵器国の双方が参加する枠組みでなければ意味がない」。確かにそうかもしれない。いくら核兵器の廃絶を主張しても、そこに実際に核兵器を持っている国が参加しないなら、現実的な力は持ち得ないかもしれない。
しかし、だからと言って、日本が核廃絶への取り組みをやめていいということにはならない。誰かが平和への道を主張し続けなければ、その日を手繰り寄せることは決してできない。平和を主張し続ける役割を担うのは、世界で唯一の被爆国である日本が最適なのに、その役割を日本は放擲(ほうてき)してしまったのだ。世界は日本が核兵器を認めたと見なす。
北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す現状にあっては「米国の核兵器に守ってもらっていながら、その核兵器を否定することはできない」。実はこれが日本の本音だ。米国から「核兵器が不要?ならば日本を守らなくてもいいのだな」。こう言われるのが怖いのだ。

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●他国に依存する防衛などない
本来、他国に依存した防衛など存在しない。「自分で自分を守れない。だから、米国に守ってもらっている」。知識層はこう反論するが、実はこの思考方法は独立国家としては論理破綻に陥っている。仮に米国が、日本を真剣に守るなら、それは日本が米国の一部、つまり米国に支配されているということの証明だ。つまり、日本は独立国家ではなく、米国の実質的な植民地であるということだ。それを今回、日本は内外に示した。「日本は米国の植民地である」と世界にそう宣言することで、実をとったのだ。「我々はアメリカのメーカーだ」とトランプ大統領に媚びを売り、制裁措置を免れたトヨタ自動車とそっくりの構図だ。
しかし、実際は米国は日本に実などとらせてくれない。米国のインフラ整備のために日本の老人の年金を使い、米国のエネルギー問題の尻ぬぐいをさせるために、東芝をつぶす。それでもまだ日本は、へつらうのか。グローバル化というなら世界の大国と堂々と渡り合ったらどうなのか。「現実主義」を言い訳に強きに屈し続ける日本。「サムライ・ジャパン」など失笑ものだ。
これでは野球1つ勝てはしない。(了)

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侍ジャパン WBC準決勝でアメリカに敗退

ローマは休日で滅んだ 1

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働き方改革が社会的な流れになりつつある。「1日の労働時間を8時間」と定める現行の労働基準法の順守を促すもので、大企業を中心に「休むことはいいことだ」といわんばかりに半ば強制的に社員を早く帰す会社が急増している。余暇を楽しみ、明日への英気をきちんと養う。もちろんいいことだ。しかし、思い出して欲しい。ローマは休日で滅んだ。休日は毒にも薬にも、そして劇薬にもなる。

 

長時間労働こそ美徳?
 財務省が大蔵省と呼ばれていたころ、深夜になると中庭にバスが停車するのが慣例になっていた。午前1時便、2時便、3時便……。終電を逃した役人たちを宿舎にまで運ぶバスで、バスの中で出発を待つ役人たちは座席に座ったまま眠り込んでいた。疲れ切りぐったりと首をうなだれながらも、国を動かす醍醐味と、仕事をやり切った達成感に満たされているようでもあった。
 ただ、役人の世界は陰険であり残酷でもある。中央官庁の採用には上級職とそれ以外に大きくわかれる。いわゆる「キャリア」と「ノンキャリ(キャリアにあらず)」という言葉に集約されるように1年ごとに出世していくキャリアに対して、ノンキャリはどんなに優秀でも課長より上にはなれない。ノンキャリは責任を持たされていないためにテレビ局や新聞社の取材に答えることすら許されない。コピーをとるだけ。しかも扱えるのは「極秘」ではない公開文書だ。
 ノンキャリをうまく働かし、その成果で出世が決まるキャリアは時としてすさまじい手をつかう。「背広かけ」。夕方6時にもなるとキャリアは宴席に出かけるが、その際、さりげなく背広を椅子にかけておく。そして何もいわずに消える。下にいるノンキャリたちは上司が帰宅したのか、中座しているだけなのか判断がつかない。ただ、背広がある以上は「また、帰ってくる」という意思表示だ。ノンキャリたちは家に帰れず、椅子にかかった背広を恨めしそうに眺めながら仕事を続けることになる。
 中央官庁の課長や課長補佐クラスになると省令1つで業界を動かす。例えば金融庁の課長であればまだ30歳代でも床の間を背負い、監督する銀行の頭取クラスと銀座の高級料亭で連日宴席というケースも少なくない。もちろん悪いわけではない。貴重な情報交換の場なのだから、まるっきり「悪」とも決めつけられない。意見を戦わせた末、優秀な頭脳を駆使し日本を健全な方向に導く省令や法律を作りあげてくれればそれで結構だ。宴席は法令に違反しない範囲でどんどんやってもらえればいい。
 災難なのはキャリアが宴席でくつろいでいる間、仕事をし続けるノンキャリたちだ。キャリアは宴席が終わるとまた銀行が用意した運転手付のハイヤーで送ってもらい役所に帰ってくることもしばしば。帰るに帰れないノンキャリを一瞥し、椅子にかけた背広を着て今度は役所からタクシーで本当に家に帰る。これで、ようやくノンキャリも帰れる。
 こんな悲惨なノンキャリの仕事はなくした方がいい。帰らないために見つけてやる仕事など、仕事とはいえない。キャリアがどこで何をしてようが、ノンキャリはノンキャリ。さっさと帰って英気を養ったほうがいい。働き方改革はどんどん進めるべきだ。

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●問われる労働の実質性
 ただ、すべてがそうかといえばそうも言えない。時間に拘束されてはならない仕事もある。寝食を忘れて没頭する仕事ぶりがあってこそ生まれる技術革新もあり、日の目を見る新商品開発もある。そこをお座なりにしての働き方改革なら、進めるのは危険だ。労働はその実質性こそ重要なのだ。時間ではない。
 「日本人は働き者で休まない。少し日本人も休んだほうがいい」。そう考えている方に衝撃的な事実をご紹介しよう。実は日本人の生産性は世界的に見て極めて低い。
 先進34カ国で構成されるOECD経済協力開発機構)加盟国の2012年の労働生産性を見ると日本の労働生産性は7万1619㌦で、OECD加盟国34カ国中で21位。GDP(国内総生産)では米国、中国について3位なのに、1人当たりの生産性となるとがくんと落ちてしまう。さらに就業1時間あたりで見た日本の労働生産性は40・1㌦(4250円)とOECD加盟34カ国中で第20位だ。
 「生産性が低いなら長時間労働で補うしかない」というつもりはない。ただ、労働時間を短縮するなら、この生産性の問題にメスをきちんと入れなければならない。そこを放置しながら、休みだけ増やしてしまえば経済大国ニッポンは1夜にして滅ぶ。「日本人は勤勉で優秀」はデータの上ではすでに幻想だ。その幻想を信じ、慢心しているといずれ日本人は手痛いしっぺ返しを食らう。いったん低下した競争力を取り戻すことは並大抵ではない。国の力を「働き方改革」のブームにのって弱めてしまってはならない。ここは思案のしどころなのである。
(了)

 

 

ゴルフプレー代 51兆円なり

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日本の安倍晋三首相がトランプ米大統領フロリダ州パームビーチで約5時間、ゴルフに興じた。ホワイトハウスで会談後、大統領の専用機でトランプ氏の別荘に移動、常の1・5倍の27ホールを回る盛り上がりぶりに政府関係者や経済界は「日米の絆が一段と深まった」と手放しの喜びようだが、このゴルフのプレーフィーが4500億㌦(約51兆円)だったとしたらどうだろう。しかも、それが年金など日本の国民のお金を横流ししたのだとしたら……。

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●トランプ「日本国民の感謝」
「首相と日本国民に、米軍を受け入れてくれていることに感謝を伝えたい」。日米首脳会談の共同記者会見でトランプ氏はこう述べた。しかも笑顔を交えながら。いったいこの豹変ぶりはどういうことだろう。選挙中は「米国はただで日本を守っている」「お金を払わないなら米軍は撤退すべきだ」とあれほど息巻いていたではないか。一転「米軍を受け入れてくれて感謝」とはあまりの変わりようだ。しかも、日米共同宣言では「沖縄県尖閣諸島日米安全保障条約の第5条が適用される」とも言及、日本のアキレス腱だった領土・領海問題に十分すぎる配慮を示した。政府高官が「安倍首相は100点以上のでき」と胸をなで下ろしたくなる気持ちは分からないでもない。
 しかし、なぜ、トランプ氏はここまで豹変したのか。「米軍の駐留経費を8割近く負担している日本の実態を安倍首相がきちんと説明でき、それを理解してくれたから」なのだろうか。「繰り返される暴言で孤立するトランプ氏が、日本という味方の心強さに気がついたから」か。いかに世界を知らない日本人でもさすがにこの説明には首をかしげるだろう。そしてこう思うだろう。「もし、そんなこと位で変わるトランプなら、とっくの昔に変わっていたはずだ」。

 

●「米国に51兆円」を約束
 今回の記者会見で注意しなければならないのは、トランプ氏がメモを見ながらしゃべっていた点だ。欧米のトップの場合、メモを見ながらしゃべるケースはそれほど多くない。特にトランプ氏がメモに頼る割合は少ない。なのに今回の首脳会談でメモを多用したということは、それほど慎重にならざるを得ない状況にあったということだ。つまり決して逃してはならない魚をトランプ米国は手中におさめ、慎重に抱え込んだということなのだ。
 その魚こそ、日本のマネーだ。日本はトランプ政権の発足で震え上がり、暴言に翻弄され、「先んずれば敵を制す」と言わんばかりに、いの一番でありったけのお金を差し出してしまったのだ。トランプ米国はちゃっかり握りしめ、ご満悦だった。「首相と日本人に感謝」となるのも当然だといえる。
 では、その日本のマネーの正体とは……。タネをあかそう。それは「日米成長雇用イニシアチブ」なる経済協力のことだ。経済協力とは言葉だけのこと。要は霞が関の官僚が日米首脳会談を前に用意したトランプ氏への手土産で、トランプ氏はいたくこれが気に入った。
なにせ総額4500億㌦(約51兆円)である。10年間かけて高速鉄道や新規発電所に17兆円、ロボットと人工知能(AI)に6兆円、サイバー・宇宙開発などに6兆円など5分野に総額51兆円を投じるというのだ。しかもそのお金の出所は日本。わざわざ「日本のファイナンス(資金)力を最大限活用」すると明言している。「日米連携」「共同」と言葉は踊るが、結局は日本が用意する巨額のマネーを米国に流し込むだけのことだ。その成果は70万人の雇用創出につながるという。

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●お金の出所は国民の年金
 ここまできくと「おいおい」。というのが日本国民の本音だろう。いったいそんなお金がどこあるというのだ。国の借金は1000兆円超。財政破綻の危機に直面しているギリシャとならぶ借金大国、日本である。51兆円ものお金をどこから調達するのか。耳を疑いたくなるというのが本音だろう。
 しかし、お金は日本がつくるのだという。出所は………。驚くことなかれ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、つまりお年寄りの年金なのである。政府系金融機関の融資や外国為替資金特別会計など日本国民のために使途がきまっているお金と合わせて米国に投じ、米国の雇用を底上げするというのだ。
 お金には2種類ある。使っていいお金と決して手をつけてはいけないお金。日本は今、後者、つまり決して手をつけてはいけないお金を取り崩そうとしている。しかも、日本のために、ではない。まるで米国のために。トランプという「ジャイアン」にいじめられないため、親の金にも手をつける「のび太」のようではないか。あまりにも悲しすぎる。意気地がなさ過ぎるではないか。大丈夫か、日本。大和魂はどこへ行った。(了)
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陰にいるのはコイツらだ(下)

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●カジノの裏に孫正義がいた

「シンゾウ」――。トランプ米大統領は安倍晋三首相のことをこうは呼ばない。先進国のトップの中で日本がいち早く米国詣(もう)でを果たし、日米の友好関係の大切さをいくら説いてもだ。しかし、ソフトバンクグループの孫正義社長のことはこう呼ぶ。「マサ」と。
 
●孫氏の米国で5兆円
ソフトバンクの株価が急騰している。27日には2014年1月10日以来、約3年ぶりに9000円台に乗せた。理由はトランプ大統領。トランプ政権の保護主義的政策は、トヨタ自動車など日本を代表する企業への激しい「逆風」となっているのに、ことソフトバンクにいたっては違う向きの風になっている。「追い風」だ。
 安倍首相がトランプ大統領との会談で「一番くじ」を引かせてもらう代わりに「IR整備推進法(カジノ法)」を手土産に携えた話は前回、指摘した通り。しかし、孫氏の手土産の場合、ちょっと安倍氏とはスケールが違う。昨年12月6日にトランプ氏と会談した際、孫氏が約束したのは「米国で500億ドル(5兆円強)の投資と5万人の雇用」。トランプ大統領も「マサ(正義)は素晴らしい男だ。感謝している」と手放しの褒(ほ)めようだ。
 もちろん孫氏ほどのビジネスマンがトランプ氏から賞賛を得るためだけに、これだけの投資と雇用を約束するはずはない。当然、その何倍もの見返りがあると判断したからこその5兆円投資であり、5万人雇用であることは間違いない。

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ソフトバンク代表の孫正義氏(左)とSprint代表のDaniel R. Hesse氏(右)

●狙いはスプリント救済
ではその見返りとは何か。端緒を捉えるため時計の針を2013年に戻してみよう。実はこの年、ソフトバンクが米携帯電話会社大手の「スプリント」と「TモバイルUS」を買収している。米国の通信大手2社をほぼ同時に傘下に収めるというソフトバンクの買収劇は当時、大型買収が相次ぐ米通信業界のなかでも大きな注目を浴びた。ソフトバンクの進行が米通信業界でも始まる、と世界は固唾を飲んだ。しかし、そうはいかなかった。
ソフトバンクが買収したスプリントは大手とはいえ業界で3位。もう1つのTモバイルUSは4位だ。そのうえにはベライゾン・コミュニケーションズとAT&Tという世界企業が君臨する。この上位2強に頭を押さえられ、ソフトバンクの2社の経営は次第に追い詰められてしまった。
 そこで孫氏が打ち出した巻き返し策が3位のスプリントと4位のTモバイルUSを合併させるというウルトラC。2社の力をひとまとめにして経営資源を集中し、ベライゾンとAT&Tを追い落とす作戦にでたのだ。
 
●米連邦通信委員委員長に再編派
ところが、この作戦も封じられる。オバマ政権下で米国の通信・放送行政をつかさどる米連邦通信委員会(FCC)の委員長であるトム・ウィラー氏(民主党)が待ったをかけたのだ。「大手4社による市場競争が大切」としてスプリントとTモバイルUSの合併を認めなかった。この裁定により孫氏の逆転劇はもろくも阻止されてしまった。
 しかし、舞台は回った。オバマ氏は去り、トランプ氏という異端が米国のトップについた。孫氏はこのチャンスを逃さなかった。すかさずトランプ氏に食い込み貢ぎ物を贈ったのだ。それが5兆円の投資と5万人の雇用というわけだ。そしてその結果が1月23日のFCCの人事だった。トランプ氏はFCCのトップにアジット・パイ氏を選んだ。
 この人事こそトランプ氏から孫氏への「返礼」の意味を持つ。何しろ、アジット・パイ氏は筋金入りの市場競争主義者なのだ。共和党側の代表として5年間、FCC委員を務めたが、ここでも自由競争が必要だとの論陣を張り、トム・ウィラー氏と対立した。そのアジット・パイ氏がFCC委員長に就任したのだから、トム・ウィラー氏とは反対の裁定を下す可能性は高い。
 そうなればトム・ウィラー氏のFCC委員長時代に却下されたスプリントとTモバイルUSの合併話はおそらく前に動き出す。少なくともマーケット(市場)はそう判断した。だからこそ、ソフトバンクの株価が異常に高騰しているのだ。

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●孫氏という男
 それにしても孫氏というビジネスマンは何としたたかな男なのだろう。身銭を切る5兆円投資でまずトランプ氏から通信ビジネスでの実利をとったうえで、トランプ氏を安倍首相を引き合わせる。安倍氏にはトランプ氏が最も欲しいものの1つであるカジノ法を手土産にもってこさせる。返す刀で安倍首相には「トランプ氏との会談をセットする」という恩を着せる。さすがとしかいいようがない。
 ただ、気をつけて欲しい。孫氏の米国での通信事業拡大のために、日本はカジノ誘致という代償を支払った。やがて日本はカジノから腐り始める。しかも、いくらソフトバンクのビジネスが米国で順調に進んでも、その見返りである税金は日本には落ちない。
 日本国は売られた。1ビジネスマンの「利」のために国が売られた。この事実は重い。そしてその片棒をかつぐ政治家の責任は重く、さらにそれを見逃す庶民の罪もまた限りなく重い。(了)

陰にいるのはコイツらだ(上)

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 米国の第45代大統領に共和党のドナルド・トランプ氏(70)が20日正午(日本時間21日午前2時)、就任した。「米国第1主義」を掲げ、これまでの世界の潮流を完全否定するトランプ氏。それにしてもいったい就任前にこれほど注目された大統領はいただろうか。その真意を確かめようとすっ飛んで行ったのが日本の安倍晋三首相だが、なぜあれほど早く会談が成立したのか。理由がある。カジノだ。

 

●解せない強行採決

実に不思議だった。誰も望んでいないカジノをなぜ日本につくらなければならなかったのか。日本経済新聞社が昨年末に実施した世論調査によると、カジノ解禁に対するは「反対」は63%なのに対して「賛成」はたったの26%。にもかかわらず日本でのカジノ運営を認める統合型リゾート(IR)整備推進法(カジノ法案)は昨年、強行採決された。
あまりにも強引、しかも稚拙である。安倍政権の本丸はあくまでも憲法改正であるはず。何も国民の6割もが反対するカジノ法案でリスクをとる必要はない。今後の政権運営を考えれば、ここで無理をせず安全策をとってもよかった。にもかかわらずカジノ法案は強行採決された。そう。強行採決せざるを得なかったのだ。
糸を引いたのがソフトバンク孫正義氏。この男、意外にもトランプ政権に強いパイプを持つ。しかもカジノ経由でだ。

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●カジノ王とトランプ氏
タネをあかそう。トランプ氏の大スポンサーこそ世界一のカジノ王なのだ。米ラスベガス・サンズ社のアデルソンという人物なのである。昨年末で316億ドル(約3・6兆円)の資産を持つアデルソンは米フォーブス誌の長者番付で世界14位。自ら所有する新聞でトランプ支持を打ち出し、1億ドル(約113億円)の寄付を申し出たほど。ウォール街をバックにつけ桁違いの資金力で選挙戦を戦ったヒラリー・クリントングループへの対抗軸として資金面から必死にトランプ氏を支えた。当然、トランプ氏には絶大な影響力を持つ。
そしてこのアデルソン氏と安倍首相との異常な緊急会見を取り持った人物がソフトバンクの孫氏なのだ。孫氏自身、昨年12月6日、米ニューヨークのトランプタワーでトランプ氏と会談しており、この時、間に入ったのがやはりアデルソン氏。トランプ氏は孫氏を「業界で最も素晴らしい男」と持ち上げており、メキシコでの工場建設を批判されたトヨタ自動車とは雲泥の差である。
 さて、ではトランプ氏と孫氏の間を取り持ったアデルソン氏と孫氏はどこでつながったのか。結局は金である。こういうことだ。1970年代後半、アデルソン氏はコンピューター関連の展示場「コムデックス」を設立したものの業績は伸び悩んでいた。これをちょうど米国での事業拡大のチャンスをうかがっていた孫氏が買い取ったのだ。金額にして970億円。1995年のことである。この資金を元手にアデルソン氏はカジノ王への階段を駆け上っていった。

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●カジノ法案は手土産 
「孫→アデルソン→トランプ→安倍」。この連関図を完結させるためには、カジノ法案の成立を手土産にするしかなかった。トランプ氏の盟友、カジノ王アデルソンが日本でもビジネスを展開する環境を整え、どうぞおいでくださいという「OMOTENASI」の証しをぶら下げていくしかなかったのだ。またしても国は安倍氏によって売られた。
 もともと推進派がカジノ解禁のメドとしてきたのは、東京オリンピックが開催される2020年。外国人観光客向けのアミューズメントが不足しているというものだったが、今となってはとても間に合わない。
 辻つまを合わせるかのように出てきたのが、経済効果だ。カジノ法案が国会に初めて提出された2013年、米投資銀行シティーグループは東京、大阪、沖縄の3カ所にカジノができた場合、約1・5兆円の年間収入が見込めるとのリポートを発表した。まるで外国人が1・5兆円を日本に落とすような錯覚をしてしまうが、リポートを読み込んでみればこのうち8割のお金は日本人が落とす。
ただ仮に全額を外国人が全額を落としてくれるにしても、たかだか1・5兆円である。日本が抱える債務1000兆円と比べてみれば焼け石に水だろう。もう一度、日本のもの作りの力を復活させ、地道に財政再建に取り組むべき時に、裏の世界とのつながりを持つ遊興施設を呼び込むことは警備費などのコストを考えてみても割に合わない。そればかりか、最も肝心な日本人のもの作りの精神を腐らせる。
100害あって1利なしのカジノを「朝見外交」の道具につかった安倍政権の浅薄な政治感覚は万死に値する。「アメリカンファースト」を声高に叫ぶトランプ氏に国を売り、こびへつらってみても意味はない。それが分からない安倍政権に未来は託せない。(了)

ジャパニーズ・トランプはいないのか

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「想定外」――。2016年を象徴する言葉を1つ挙げるとするなら、この言葉になるだろう。英国の欧州連合(EU)離脱、米大統領選でのヒラリーの敗北など今年は想定を覆す事件が勃発し続けた。しかし、目立たないが決して見過ごしてはならないのが日本が引き起こした「想定外」。戦後70年間、日本が担ってきた核兵器拡散の「楔」の役割を日本が放棄してしまったことだ。
 
●日本が世界を裏切った


その歴史的な瞬間は10月27日に起こった。国連総会で軍縮を話し合う第1委員会。核兵器使用を禁じる核兵器禁止条約の交渉入りに日本が異を唱えたのだ。「核兵器の使用がもたらす破滅的な結末を深く懸念する」とし、核兵器の使用を禁じるための法的拘束力のある禁止条約の必要性を議論することに「反対」する側に回ったのだ。
 安倍晋三首相は「今回の判断は簡単ではなかった」とコメントしたが、何のことはない。米国の恫喝に屈しただけのこと。実は米国は国連総会の前に密かに水面下で各国に圧力をかけている。北大西洋条約機構NATO)諸国に「核兵器禁止条約の防衛上の影響」なる文書を送りつけ、暗に採決時に反対票を投じるように求めていたのだ。当然、日本や韓国にも同様の圧力をかけきており、それに日本があっさり屈した。
 米国がそう言ってくる理由は要はこういうことだ。「誰のおかげで日本は平和を維持できているのか」。米国の核の傘の下に逃げ込んでいるから日本の平和は保たれているのに、その核を否定する「核なき世界」を推進する側に回るなどとんでもないというわけだ。
 主張はそれぞれあろう。しかし、日本は戦争被爆国である。一般市民が核兵器の犠牲にさらされた世界で唯一無二の国である。その立場と役回りを忘れてはならない。人々の日常を一瞬にして地獄絵図に変えた原爆の非人道性と酷さを身を持って体験した国が、その核兵器を肯定するなどあってはならないことだ。世界は日本に失望した。
 国際社会においてそんな当然の振る舞いができない国をだれが信用するというのか。自国の子供や老人、家族を殺した国にひざまずき、圧力に屈し媚びを売るような国をいったい誰が評価するというのか。

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●二流政治家はいらない


核兵器禁止条約の交渉入り決議に「反対」と唱えた国は、米国、英国などたった38カ国(日本を含む)。これに対して「賛成」は123カ国だ。安倍首相の十八番である「グローバル化」という観点で論じたとしても世界の趨勢は「核兵器反対」なのだ。世界主要列強国に日本が名前を連ねる心地よさに身をゆだねてはならない。
ここで日本は方向を転換するべきだ。核兵器廃絶に向けた議論は来年3月から国連で始まるが日本は正々堂々、被爆国としての論を展開しなければならない。岸田文雄外相は「現実的で実践的な取り組みをしなければならない」と発言、「現実的」で「実践的」な判断を優先する意向だが、それではいけない。二流の政治家にありがちな「リアリズム」志向、「長いものに巻かれろ」式で米国の意向を忖度(そんたく)しながら事を進めるということではあってはならない。

 

●卑しき「長いもの」


日本は是非、その「長いもの」の正体をよく見て欲しい。12月に起きた普天間基地沖縄県宜野湾市)所属の新型輸送機オスプレイ名護市沖で不時着・大破した事故はそれを考えるうえで、有力な材料の1つだ。事故原因は空中給油の訓練中の乱気流などによるトラブルということだが、米海兵隊の主力輸送機オスプレイは導入当初から操作性の難解さからその安全性が疑問視されてきた。今回の事故はその懸念が単なる憂慮ではなかったことの証しにほかならない。
万が一、事故現場が今回のような海岸ではなく住宅街であったならその被害は計り知れなかった。当然、徹底検証されその結果が日本側に提供されてしかるべきだが、日米地位協定があるために日本は事故現場に近づくことすら許されない。せめて事故の原因が本当に気象条件によるものだったか、かねてから指摘されてきたようにオスプレイという機体そのものにあるのか、徹底検証されるべきだ。
しかし現実は違う。「安全性が確認できるまで運用を一時停止する」としていた在日米軍は日本側の意向を完全に無視、事故からたった6日後に飛行を再開してしまった。この対応に沖縄県側の怒りはいまだおさまっていないが、その神経を逆なでするように国は2017年度予算案でオスプレイの取得費391億円を計上している。
この顚末で分かるのは、米国が日本という国に対する最低限の礼節を失ってしまっているという事実だ。日本国の住民の安全など全く眼中に入っていない。その米国に日本が卑しいまでに尾を振っている。

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オスプレイの機体の残骸を回収する米軍関係者=15日午後、沖縄県名護市安部 

●GDP2位国のプライドはないのか


背景にあるのはトランプ次期大統領が言う通り「日本をただで守ってやっている」という意識だ。「守ってやっているのに何の文句があるんだ」という考えだ。この強弁に日本は怯えている。「米国が撤退したら日本は丸腰になる」と震えている。
本当にそうか。日本はそれほど弱い国なのか。GDP(国内総生産)で世界2位の国が自国を自分で守れないはずはないだろう。発想を変える時だ。ここまで卑屈になる必要がどこにある。ジャパニーズ・トランプはいないのか。でてきて欲しい。そしてこう言って欲しい。「米国よ出て行け。自分の国は自分で守る」            (了)

プライドはないのか

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 世界が驚いた。国連総会第1委員会(軍縮)で核兵器を法的に禁止する「核兵器禁止条約」について、日本がこれを議論することに反対したのだ。非核三原則を国是とし平和国家としての地歩を固めてきた日本。その日本が核兵器保有を認めたことで日本は完全に信頼を失った。核兵器の保有を否定しない「平和国家」など誰も相手にしない。プライドはどこにいった。

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●大切なのは米国の顔色だけ


 「米国の核抑止力(核の傘)に依存する安全保障政策と相いれない」。核兵器保有を擁護する側に回ったことについて日本政府はこうコメントした。悲しいではないか。「米国の核で守ってもらっているのだから、その核を否定するわけにはいかない」というのだ。いつから日本はこんな卑屈な国になったのか。
 「相いれない」というならむしろ非核三原則の方だ。核兵器を「製造せず」「持たず」「持込みませず」とする この国是と核兵器の保有は全く整合性がとれない。1967年 12月,佐藤栄作首相も国会答弁で正式に表明しているこの国是を真っ向から否定し、米国の顔色を伺うためだけに国連という最大の公の場でみせた日本の態度。もはや「醜態」としか表現のしようがない。

 

ヒロシマが泣いている


 いったい日本はこの核兵器で何万人の人が亡くなってしまったのか。無差別に人を殺す核という特殊な兵器の残酷さは日本人しかしらない。その日本人が核兵器を認めてどうするのだ。世界にあの悲劇を伝え続けるのが、日本の役割ではないか。日本だからこそ説得力を持つのではないか。ヒロシマナガサキが泣いている。

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●コケにされる日本


 その役割を放棄するということはプライドの放擲(ほうてき)である。プライドなき国はもはや米国の番犬でしかない。その証拠に最近、米バイデン副大統領が習近平氏にある発言をして物議をかもしている。「日本は一夜で核武装可能」だと。
 この国はチェック機能を喪失してしまったのだろうか。野党は死に体のTPP法案の成立に抵抗するポーズをどうとるかだけに腐心、第4の権力とまでマスコミは沈黙を続ける。いったいこの国の良心はどうなった。(了)

ソロスが間違えた

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 天才投資家ジョージ・ソロスアジア通貨危機を演出し、イングランド銀行を打ち負かしたその男が読み間違えた。米大統領選でだ。もちろん読み間違えたのはソロスだけではない。世界が間違えた。100%クリントン――。その予想が外れた瞬間は「富裕層富裕層による富裕層のための政治」に小さいが歴史的な穴があいた瞬間でもある。

 

ウォール街が負けた


一国の中央銀行との戦いにすら負けなかった投資家ソロス。249億円(約2兆5900億円)もの個人資産を持ち「ソロスがどこにはるか」で株価は乱高下し、世界のマネーの流れは決まった。そんな伝説の投資家が米大統領選で「はった」のがクリントンだ。今回の大統領選でもクリントン絡みのスーパーPACに700万ドル(約7億2900万円)を献金を行っていた。
 ウオール街や富裕層との蜜月ぶりをクリントンも隠すことはなかった。ソロスと同じ巨大ファンドを操る投資家であるウォーレン・バフェットは2015年12月、ネブラスカ州オマハで行われた集会でクリントン支持を表明、フェイスブックシェリル・サンドバーグCOOも「ヒラリー・クリントンが大統領になってほしい」と語った。大物シンガー、レディーガガも応援集会に駆けつけた。
 米国のトップ層の誰もがヒラリーを応援し、勝利を疑わなかった。あからさまにヒラリー側につき、そして負けた。これまで政治の舞台からこぼれ落ちてきた大衆が、特権階級の資本主義に「ノー」を突きつけたのだ。大衆が勝利した。これは英国のEU離脱に次ぐ「革命」と言っていい。
 さて、日本。トランプ勝利を受け、円が高騰、日本の市場(マーケット)は暴落し一時、1000円以上値を下げた。今後の世界経済が一気に不透明感を増したとの見方が日本を覆った。

 

●危機は「ヒラリ」とかわされた


 しかし、日本は救われた。トランプ勝利で危機はヒラリとかわされた。ウオール街のしたたかな世界戦略の魔の手はこれでいったん動きを封じられた。そのことを日本人は知るべきである。
 トランプは確かに保護主義であり米国の利益の露骨な代弁者である。そこに「世界の警察官」の品格はない。それでいい。それが現在の等身大の米国なのだ。「もっと金を出さないなら米軍を日本から撤退させる」。大いに結構。そこから日本はどうするか考えればいい。核の傘をちらつかされながら、ODAへの支出や米国債の購入など巧妙に形を変えて巨額のマネーをかすめ取られるよりずっといい。

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●日本よ、ここで変われ


 トランプ勝利は日本にとっては願ってもない僥倖(ぎょうこう)だ。ここで日本の立ち位置を考える。世界でどう振る舞うのか、もう一度白紙に戻して考えるチャンスを得たのだ。そこを見誤ると日本もソロスのように読み違える。 (了)

文殊読みの「もんじゅ」知らず

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高速増殖炉原型炉」――。これ戒名ではない。プルトニウムウランを混ぜ合わせたMOX燃料を使用した発電プラントのことだ。日本では福井県敦賀市で研究が進む。原発何基分もの威力を持つ増殖炉に、つけられた名前は「もんじゅ」。獅子を乗りこなす文殊菩薩もんじゅぼさつ)のように、原子力という巨獣を飼いならしたいという思いがこもるという。しかし、気をつけて欲しい。人は知恵を司る文殊菩薩ではない。


●荒唐無稽な夢


ノーベル賞受賞者のコメントを聞いて毎年、痛感させられるのが真摯さだ。2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典・東京工業大学栄誉教授も「生命の現象の数%を解明しただけ」と述べたが、本物の知恵者は決して傲らない。しかし、日本の原子力関係者の傲慢さと来たらどうだろう。福島第1発電所の事故で分かったように原子力発電ですらいったん「臨界」に突入すれば制御不能に陥るというのに、その何倍もの威力を持つ巨獣「もんじゅ」を飼いならそうというのだ。発電で消費した量以上の燃料を生み出すという荒唐無稽な「夢」は、人の分際を大きく踏み越えてしまっている。


カネゴン化するもんじゅ


日本はこの「もんじゅ」に過去20年の間に1・2兆円もの資金を投じ、カネゴンのようにモンスター化させてしまった。冷却のためのナトリウム漏れ事故やそのトラブルの隠蔽、1万カ所もの点検漏れなどトラブルを次々と引き起こすだけで、ほとんどまともに動かぬままの巨獣なのだが、飼っておくだけで年間200億円のお金がかかるという。本気で飼いならすなら今後10年で耐震補強などで6000億円が必要だ。

では、もんじゅ廃炉にすればすべて終わるのか。これまた簡単ではない。30年の時間と3000億円のお金がかかる。通常の原発なら850億円の廃炉費用も、モンスターになるとその3倍以上に膨れあがる。引くもお金、進むもお金――。実に原発にはお金がかかる。
しかしつくってしまったものは仕方がない。「存続か」「廃炉か」。政府はようやく「もんじゅ」をどうするか、年内に決着をつける方針で、原子力規制委員会の頑張りもあって年内に廃炉が決定、早ければ2020年にも廃炉を開始する計画だ。途方もない授業料を払ったが、日本が原発の手ごわさを学んだのなら仕方のない支出でもある。


●終わらない悪夢


ところが終わらないのである。確かに政府は原子力関係閣僚会議で高速増殖炉原型もんじゅ廃炉の方針は決めた。官房長官菅義偉氏も「もんじゅは今年中に廃炉を含めて抜本的な見直しを行う」ことは宣言した。ただ、高速炉の開発は別の方向で続けるというのだ。フランスが現在、研究を進めている「ASTRID(アストリッド)」を高速炉時代の先駆けと位置づけ、共同研究などの方式で再び開発を進めるという。
おかしいではないか。もんじゅでこれだけの代償を払っておきながらまだ懲りない。ずるずると「夢」に引きずられ巨費を垂れ流ししていく。フランスの原発技術に限界があることなど福島第1原発の事故処理でフランスにお金だけとられて何もできなかったことで確認済みではないか。

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●漂うプルトニウム


しかもこの高速炉で万が一にも「消費した以上の燃料を生み出す」発電が現実のものとなったとすると、日本は解決不能な新たな課題を背負いこむことになる。増え続けるプルトニウムを消費するためにさらに猛烈ないきおいで原発にのめり込んでいくしかない。
なぜなら国際的な取り決めで「原子力発電により発生する使用済み核燃料から取り出したプルトニウムは、自国で使い切らなければならない」という一種「国際協約」があるからだ。ただでさえ日本は現在、国内外に48トンのプルトニウムを抱え立ち往生している。例え国内の原発16~18基でプルサーマル発電でプルトニウムを消費したとしても年間5・5~6・5トンでしかない。すでに消費しきれないほどのプルトニウムを抱えているにもかかわらずさらに高速炉でプルトニウムを増やしていくなら、「日本も核武装を検討しているのではないか」との嫌疑がかかっても仕方がないだろう。

 

●フランスは「罠」


ここはいったん原発から手をひくべきだ。少なくとも高速炉はリスクが大きすぎる。とりわけ海外、フランスとの共同開発など体よく巨額な資金をくすねとられるだけである。海外との連携に落とし込めば、何か高尚なプロジェクトに昇華させた気になるのは日本の霞が関の官僚の癖であり、陥りやすい罠でもある。

空想を空想でつなぐ新技術への野望は無意味であるだけでなく、膨大なコストを伴う。時の権力者たちが目の前の帳尻を合わせるために、非現実な絵を描いているうちに、国民は戸惑い、国はやせ衰えていく。ことは急を要する。(了)

島は2つで歯車を回せ

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    北方領土問題が解決に向け動きだそうとしている。安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が今秋から年末にかけ会談するのを機に、日ロの政府が落としどころを探る動きを活発化させているからだ。ここは日本も分別をわきまえ歯舞、色丹の2島で合意し、両国の新しい時代を引き寄せるべきだ。日本のソケットの穴は2つ、4つのコンセントのピンは刺さらない。

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※読売新聞記事より

 

●米国の間隙(かんげき)をつけ


日ロ急接近の理由はプーチン氏と安倍氏の個人的な信頼関係。これまで両氏は14回の会談を行っており、気脈は通じてきている。実際、柔道家でもあるプーチン氏は親日家で知られ、安倍氏プーチン氏を「ウラジミール」とファーストネームで呼ぶほど。その2人が11月にペルー、そのわずか1カ月後の12月には安倍氏の地元である山口県で会談することが決まったわけだから、「両国の間で何か劇的な進展があるかもしれない」との期待が高まるのも当然だ。
確かにそのサインはある。23日にまでロシア大統領府が明かにしたところによると、ロシアのプーチン氏が日本との経済協力を担当するポストの新設を決め、10月15日までに人選と権限について提案するようメドベージェフ首相に指示したというのだ。これは日本政府が対ロ経済協力の担当相を新設したことに対応した措置ではあるが、両国がまず経済から歩み寄ろうという意思を明確にしたものといえよう。

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●整う環境


まずは経済、次に領土問題、そして平和条約締結と日ロの関係が進展することを期待したいところだが幸いその環境は整っている。最たるものが米国だ。米国はちょうどオバマ大統領の任期切れが迫り11月には大統領選もある。いわば外交の空白期間に入っており、日ロが急接近することに横やりを入れる余裕がない。一方、交渉相手のロシアも原油安と欧米の制裁により経済状況はかなり厳しく、日本との関係強化を急ぎたいところだ。
しかし、何よりも重要なのは日本である。アベノミクスの生命線である株価は伸び悩み、銀行の収益悪化などマイナス金利の副作用も顕在化し始めている。頼みの中国は不安材料満載で、とても日本の経済をけん引するどころではない。袋小路に差し掛かっていることは明白で、ここは一気に北に進路をとり、ロシアとの連携で苦境を脱したいところだ。

 

●御稜威(みいつ)※は北から


御稜威は北から下りる。ロシアとの交渉をまとめ平和条約締結によりロシアという巨大なニューマーケットが本格的に開かれるとともに、北方領土周辺の石油をはじめとした資源開発にも目鼻がつく。単なる心理的効果ではなく、構造的なプラスの材料が北にはいくつも埋まっているのだ。
その北の御稜威を手中に収めるため、日本は正々堂々、4島返還の主張を放棄すべきだ。1956年の日ソ共同宣言にそって歯舞、色丹の2島を返還してもらい、択捉、国後の2島は譲る。これが正解だ。ロシアも2島なら「ダー」※となる。

 

●ソケットの穴は2つ


よく考えて欲しい。日本のソケットの穴は2つ。これで証明しているではないか。4島にこだわることは、交渉をまとめないための方便だ。2つに絞る。ここにこそロシアとの交渉のツボがある。肝心なのは領土を増やすことではない。電源を入れること。ソケットの穴2つにピンを差し、金龍国ニッポンにスイッチを入れることだ。そうすれば、歯車が回りだす。 (了)

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※御稜威(みいつ)…「厳 (いつ) 」を敬っていう語。天皇や神などの威光。「―津々浦々に及ぶ」

※ダー【Да】(ロシア語)…日本語で「はい 」の意。

○関連記事『北北北に進路をとれ』

http://mitsu369.hatenablog.com/entry/2016/05/02/%E5%8C%97%E5%8C%97%E5%8C%97%E3%81%AB%E9%80%B2%E8%B7%AF%E3%82%92%E3%81%A8%E3%82%8C

 

築地問題、解は『2つ』


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    築地市場(東京・中央)からの移転が延期された豊洲市場(東京・江東)。建物の下にポッカリと空洞が空き、水がたまっていることが判明、建設工事の談合の疑いも出てきた。迷走ぶりが際立つなかで、小池百合子知事はいったいどう決着をつけるのか。正解は「築地も豊洲も両方生かす」だ。

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●建物の下に空洞

 

築地の移転先として整備が進む豊洲市場の用地はもともと東京ガスの工場跡地。当然、土壌は汚染されており、有害物質であるベンゼンが環境基準の4万3000倍という高いレベルで検出された。この対策として東京都は表土を削りとり、新たに奇麗な土地を盛ることで安全を担保する手はずだった。
ところが、違った。確かに厚さ2メートル近くの表土はけずりとられていたものの、その後に盛られるはずの土壌が、建物の下の部分にはなかったのだ。結果的に建物の下には深さ4・5メートル近くの穴があき、そこに不審な汚水がたまってしまっていた。

 

●わざと穴はつくられた

 

いったいなぜこのような事態となったのか。実はこの建物の下の穴は、決して「うっかり埋め忘れた」わけではない。それはそうだろう。これだけ反対者の多い豊洲移転である。工事を担当するゼネコンは1㍉の狂いもないよう工事を進めたはすだ。
となるとなぜ建物の下に穴があるのか。調査を重ねて判明したのだが、「周到に、そしてあえて空洞にした」(工事関係者)という事実だ。表面は削り取ったとはいえ、汚染が残っている可能性のある土壌と、食べ物を扱う市場の床が直接、触れ合うことを避けたのだ。このことは誰にも知られず、極秘のまま闇に葬られるはずだった。
しかし、その計画は小池氏の登場で狂ってしまう。工事関係者から都議の一部に「秘密の穴」の存在が漏れ、マスコミを通じて世間の知るところとなってしまった。
庶民の食べ物が有害物質を懸命に遮断した建物の中で取り扱われること自体、無理がある。極めてセンスのない移転計画だったわけで、建物の下にあいた穴は、如実にこの計画がいかに「無理筋」だったかを象徴する1つの証左でもある。

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●築地を生かせば豊洲も生きる

 

ただ、事ここ至っては、豊洲市場がいかに問題であるかをあげつらっていても問題は解決はしない。5000億円を投じた世界最大の市場は出来上がってしまったのである。都民の血税を投じたこの施設をどう生かすかを検討するのが筋だ。
そして、そこで出てくるのが「豊洲」も生かし、「築地」も残す選択肢だ。両市場を機能分担し、連携させながら両方、使うのだ。例えば築地市場は国内消費者向け、そして豊洲市場は海外への輸出品、または海外からの輸入品をさばく市場として利用する。豊洲には築地になかった船着き場も整備されている。ここを使って生鮮品を出し入れすればいい。

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●食の輸出大国へ

 

農林水産省がまとめた2015年の農林水産物・食品の輸出額は7452億円。前年比で21・8%増、3年連続で過去最高を更新している。世界的な和食ブームを追い風に安倍政権も「2020年には1兆円にまで引き上げる」との目標を掲げており、場合によっては「前倒しで実現させたい」(政府関係者)という。
 日本の食が世界に開かれていくとするなら、築地だけでは足りない。オリンピックロードは迂回させ、築地は残すべきだ。老朽化の問題はリニューアルでなんとでもなる。そのうえでブランドが失墜した豊洲と連携、豊洲は海外との取引の拠点として使えばいい。
 1つつくれば、1つ壊さねばならない。そう考えるのは人間の頭のかたいところである。 (了)  

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どう(銅)でもよくない、オリンピック

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 夏季五輪リオデジャネイロ大会が閉幕した。日本のメダル総数は41個で前回(2012年)のロンドン大会の38個を上回り史上最多。メダルラッシュと国は沸くが、内訳を見ると銅メダルが21個と半分以上を占め、金メダルは12個と全体の3割だ。つまりリオで日本国の国歌「君が代」が鳴り響いたのはわずか12回でしかない。あえて言おう。銅では意味がない。
 
●思い出づくりもいいけれど……。


「楽しみました」「いい思い出ができました」。最近の五輪選手に多い試合後の言葉だ。確かにそうだろう。あれだけの大舞台で世界の注目のなかでプレーできたのである。良い経験になったであろう。これからの人生に生かして欲しいのはもちろんのことだ。
 ただ、それで終わってはならないのがオリンピックである。もともとギリシャで始まった古代オリンピックギリシャ全土から競技者や観客が参加したが、いくらポリス同士で戦争をしていても、いったん中断してオリンピックに参加しなければならなかった。つまりオリンピックは戦争の代わりだったのである。日本選手にその覚悟が見えない。

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●国費はどうする


そもそも選手1人にどれだけの国費を投じているのか、考えて欲しい。今回のリオには300人を超える選手団を日本は派遣したが、その一人ひとりに国費が投じられているのである。それだけ選手には国の威信を託しているのだ。
それには金メダルをとってもらうことが肝心だ。日の丸を1番高いところにあげ、日本国の国歌を鳴り響かせなければ、国の威信は示せない。
銅も結構。銀ならなおいい。個人の良い思い出になるだろう。しかし、国の威信ということになれば話は別だ。金でなければなんの意味もない。銀でも銅でも1度は試合に負けたという事実は揺らがない。
日本は今、最も負けてはならない時期だ。尖閣諸島沖に中国の船団が押し寄せる領海を侵犯され続けているのである。いわば国難。寸分も国の弱みは見せられない。それほど国が危うい時期に個人の思い出づくりに国が付き合っている余裕はない。金龍国ニッポンには金メダルこそよく似合うのだ。(了)

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