琴言譚[きんげんたん]

今、救世主なら語る

東芝と安倍、断ち切られた蜜月


東芝の不正会計処理事件は蜜月だった安倍政権との間にくさびを打ち込んだ。安倍政権と手に手を取り、政権の政策面を全面的に補佐してきた東芝の失墜は、アベノミクスの限界をさらけ出してしまった。東芝頼みの安倍政権は重要なエンジンを1つ失った格好だ。


「財界総理」と呼ばれ政治や海外への顔役となる経団連会長。現在は東レ榊原定征会長がその席に座る。売上高ではトヨタ自動車の10分の1程度の繊維メーカーの会長がトップとなったとあって「経団連の地位もかなり低下してきた」との見方もあるが、安倍首相自らが財界にすり寄る現状では、政府に対する発言権は依然、大きいものがある。

その経団連東芝は人材を輩出し続けてきた。1956年、第2代の会長となった石坂泰三氏、1974年から会長を務めた土光敏夫氏をはじめ、副会長、企画担当者、スタッフなどその時々に応じて必要な人材を東芝は送り込み続けてきた。
社員20万人、取引先2万2000社の巨大企業だからこそ成せる技と言えるが、東芝はその役回りを務めることで、投資に見合う十分な見返りも受けてきた。

例えば、安倍政権が重要施策として掲げるインフラ輸出。鉄道や空港などインフラに関連した製品やサービスを海外に売る成長戦略の一つで、政府は2020年までにインフラの輸出額を30兆円と10年比で3倍に増やすという。そのためにODA※をバラマキ、首相自らトップセールスを展開するが、これなどはまさに東芝の意向を受けたものだ。

それをよく表しているのが「パッケージ型輸出」といった言葉。政府はこのパッケージ型のインフラ輸出を全面的に後押ししていくという。

パッケージ輸出とは、単に物を売るだけでなく、メンテナンスやサービスをセットにして一体で輸出するというのがその内容。

しかし、地球の裏側で巨大な高速鉄道網を構築、そこに車両を走らせ、メンテナンスまでするような力を、今の日本でいったいどれだけの会社が持ちうるというのだろうか。

あえて言えば日立か三菱重工くらい。結局、安倍政権成長戦略というのは、すなわち東芝成長戦略を意味することになる。

東芝は国にインフラ輸出といった自分がほぼ独占的に力を発揮できる分野に、まんまと日本を引き寄せ、自社のセールスに利用しているのである。

国と企業が主客逆転してしまい、従であるはずの1民間企業の利益のために主である国が世界を走り回る奇妙な構図が出来上がったのだ。

実際、今回の不正会計処理事件が発生する前の東芝は政権にものを言える立場をしっかりと確保していた。副会長の佐々木則夫は今回の事件で辞任したが、それまでは2013年6月から経団連の副会長のポストにあった。

経団連を代表して、政府の成長戦略を立案する産業競争力会議経済財政諮問会議の民間議員としての立場も得ており、このルートで政権に圧力をかけてきた。安倍政権肝煎りの「インフラ輸出」はその賜物だったわけだ。

今回の不正会計処理事件で東芝は財界からほぼ姿を消す。当面は復帰することは難しいだろう。安倍政権の陰の立役者が、ひとまず深い闇に沈んだ。(了)

ODA⇨開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/oda/oda.html