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琴言譚[きんげんたん]

今、救世主なら語る

サンマが見限る経済大国



 秋の味覚「サンマ」が異常だ。初競りで1kg7万円の最高値を付け、その後も値段がなかなか下がり切らないのだ。9月に入っても平均産地価格は前年同時期の3倍近くにあたる600円程度。東京・築地でも900円(中心値)と高値だ。中国や台湾の乱獲で日本近海でのサンマが激減、奪い合いの状況が続く。さらば庶民の味……。衰退する経済大国にはサンマも寄りつかない。
 
あはれ 
秋風よ
情(こころ)あらば伝えてよ――

「秋刀魚の歌」で佐藤春夫谷崎潤一郎の妻との道ならぬ恋に苦悩する孤独を詠ったが、その恋の寂しさを演出する道具として使ったのがサンマ。確かに「秋風」、「許されぬ恋」、そして「サンマ」とくれば心にまで冷たい風が流れこんでくる心持ちになるが、そのサンマも1尾2300円ともなれば、様子が違ってくる。



●中国、台湾が公海で先取り

いったい何が起こっているのか。最大の原因が中国と台湾の公海でサンマの乱獲だ。公海はどの国にも属さない海だから、操業を縛る規制は存在しない。それをよいことに経済成長で中間層の所得が上昇してきた「爆食」の中国や台湾が日本の5倍もの1000トンクラスの大型漁船で獲りまくっているのだ。

通常、秋になるとサンマは太平洋を経て日本海に近づく。日本漁船は近海の排他的経済水域EEZ)にサンマが回遊してくるのを待ち、これを捕獲してきたが、その前に中国や台湾が先取りしてしまうのだ。日本のサンマ漁はさっぱり奮わない。2008年の34万3225トンをピークに減少が続き、2013年には14万7819トンとピーク時の半分以下にまでなってしまった。

半面、漁獲量が急増しているのは中国と台湾。中国の漁獲量は2014年までの2年間で約38倍の7万6000トン。台湾はさらにこれよりも多く、日本を上回る水準にまで増えている。

●日本を見限る台湾

問題なのは中国よりも台湾だ。台湾が獲ったサンマはまずは自国に振り向けるが、それでは当然、消費しきれない。その分を日本ではなく中国に持ち込んでいるのだ。冷凍にしたサンマのほか缶詰にも加工、国内総生産(GDP)で日本を抜き世界第2位の中国に輸出している。水産業者は価格はもちろんだが安定的に消費してくれる市場(マーケット)に卸したいのが本音。そういった意味では台湾の水産業者に日本よりも中国のほうが魅力的に映っているのは確かだ。

たかがサンマ、されどサンマ。ささやかな秋の楽しみが遠ざかった庶民にとっては寂しい出来事だが、日本がアジアの近隣国に見限られている証左なのだとすれば、さらに寂しい話しでもある。高騰するサンマに佐藤春夫も眉をひそめているかもしれない。(了)


※『佐藤春夫』《Wikipediaより》…https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E8%97%A4%E6%98%A5%E5%A4%AB