琴言譚[きんげんたん]

今、救世主なら語る

自然に帰れ、東芝

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 東芝が米原発事業子会社ウェスチングハウス(WH)の損失を公表していなかった事実が発覚した。金額にして1156億円。粉飾決算後の損失隠しだけに東芝の情報開示(ディスクロージャー)の姿勢を疑いたくなるのだが、この問題が深刻なのはさらにここからだ。これだけの損失を発生させながら、東芝は2019年3月期以降、原発事業事業環境が好転、年平均1500億円の営業利益が上がると試算しているのだ。現実離れした楽観的な数字を掲げながら、原発に拘泥する東芝。このままでは原発の重荷で東芝自らも沈む。
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●情報開示ルール、無視の裏舞台

「大いに反省している」――。11月27日、東京都内で会見した室町正志社長は頭を下げた。最近ではすっかり見慣れてしまった東芝の謝罪会見。「またもや東芝……」と市場(マーケット)関係者の反応は冷ややかだが、日本経済に与える東芝の影響度合いを考えれば、白けてばかりもいられない。
この問題でまず押さえておかなければならないのは東芝が確信犯的に東証の情報開示ルールに違反していたという事実だ。本来なら遅くとも11月7日の2015年9月中間決算発表の際には発表されるべきだったが、東芝はそれを承知のうえで、だんまりを決め込んだ。水面下では発表の準備を進めておきながら、あまりにも厳しい原発事業の実情を白日のもとにさらすことによる影響の大きさを恐れ、土壇場で先送りしてしまったのだ。
しかし、収まらないのが開示ルールを無視された東証経済産業省。とりわけ東芝を監督する立場にある経済産業省はこれまで東芝と蜜月の関係にあっただけに怒りは大きかった。「WH問題をきちんと説明するように」との再三の指示を完全に無視され、最後は「とにかく早くやれ」と強引に東芝に迫った。その結果、今回の異例のタイミングでの発表にいたったわけだが、こうしたことから考えると記者会見で室町社長の口から出た「大いに反省」という言葉は国民に対してというよりは、損失隠蔽で怒りをかった東証経済産業省を意識し発せられた意味合いのほうが強い。
ただ、不自然なのはいくら落ち目とはいえ、東芝ほどの名門企業が、東証の開示ルールを公然と無視してしまったという事実だ。特に東芝出身の西室泰三氏が社長を務める日本郵政グループは4日にグループ3社の株式を上場、東証が運営・管理するマーケットの恩恵を最も受けている企業の1つ。本来なら東芝はとても東証の意向を無視することはできないはずである。
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〈記者会見の冒頭、頭を下げて謝罪する東芝の室町正志社長(右)。左端はウェスチングハウス・エレクトリックのダニエル・ロデリック社長=27日、東京都港区で〉

●断ち切れなかった原発依存

それでも東芝がWHの損失を隠さざるを得なかったのは、11月7日の時点までに東芝が「原発事業をどうしていくか」を定めきれなかったという事情がある。
今となってはWHも西田厚聡元社長ら旧経営陣の時代に買収したいわば過去の遺産。東芝はその旧経営陣に対して『善管注意義務』違反などで損害賠償を求める訴訟を起こし、全否定したわけだから、このタイミングでWHそのものを否定する選択肢もあったはずだ。だから迷った。「原発を切るべきか、残すべきか……」。そして結局はWH買収を決めた経営陣は切り捨てたが、WHそのものは切り離さなかった。
このことは東芝のこれからを占う上において極めて重要な意味を持つ。東芝がWHを含む原子力事業の業績を明かにしたのは今回が初めてだが、ここで明かになったのはかなり厳しい現状と今後の強引な事業計画だ。
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●無謀な経営再建計画

東芝によれば同社の原発事業はWHを買収した2006年以降、年200億円から500億円程度の営業利益を出していた。これが2011年3月の東京電力の福島第1原発事故後、大きく狂った。2014年3月期は358億円、2015年3月期は29億円の営業赤字となり、原発事業は「鬼っ子」に変わった。このため大枚をはたいて買収したWHの価値も買収時から一気に目減りし、今回の1500億円を超える巨額の減損にいたったわけだ。
ただ、ことがこれで終われば東芝にも復活が残されたかもしれない。しかし、東芝はこの分岐点で原発に突入する道を選んだ。子会社のWHを通じ今後15年間で世界で64基の原発を受注、最終的には年間1兆円の売上高を原発事業で稼ぎ出す計画を打ち出したのだ。これには2015年3月期段階で、たった740億円しかない新規建設の売上高を19年3月期以降に年間平均でその8倍の5900億円にまで引き上げる必要がある。つまり実現可能性がほぼゼロだということだ。残された経営資源すべてを原発に注ぎ込んだとしても難しい。
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核分裂は滅びへの道

日本が福島第1原発で実証してみせたように、原発はもはや次世代を担うエネルギーとは言えない。東芝に言わせれば、「世界には今後400基の原発をつくる計画がある。膨大な需要があるから大丈夫だ」ということになろうが、世界の国々もそこまで能天気ではない。福島第1原発で原子炉から漏れ出たウランをどう除去するか、その方策すらたっていない現状からみて、原発が今後世界で普及していくとは考えにくい。それは東芝自身が1番、分かっているはずだ。
企業経営には時代を見る冷徹な目が必要だ。時代の潮目を見誤り、流れに棹さすならば、いかに明晰(めいせき)な経営者であっても企業を滅ぼす。今、時代はもはや原発ではない。太陽の光と熱という基本的なエネルギーが核融合によって生み出されていることから考えれば、核分裂によりはき出される核エネルギーが自然の摂理から遊離していることは明白だろう。自然から逸脱するものは、いずれ自然から淘汰される。東芝もそうだ。不自然な会計、不自然な再建計画、不自然なエネルギー……。東芝よ、自然に帰れ。再生の道はそこにしかない。〈了〉
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