琴言譚[きんげんたん]

今、救世主なら語る

ミサイル?「Et alors(それが何か?)」

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北朝鮮が動いた。日本政府は2月10日、北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射に伴い独自制裁の強化を決定したが、これに対し12日、拉致問題を含む日本人の調査を全面的に中止することを決めたのだ。朝鮮中央通信が伝えた。今回の日本政府の北朝鮮に対する行動はあまり素早く、そしてあまりに軽率。そのツケが早速、回ってきた。米国に投げた北朝鮮の牽制になぜ日本はそんなに怯え憤る必要があるのか。

●世界はなぜ北朝鮮に憤る?

 30年ほど前の話である。第21代のフランス大統領ミッテランが朝食会の席上、記者から愛人との間に隠し子がいるのかと問われ「Et alors(それが何か?)※」と返し、世間を沸かせたことがある。金正恩キム・ジョンウン)もそんな心境かもしれない。「長距離弾道ミサイル?」「発射したよ、それが何か?」。
 確かに北朝鮮の外交戦略には1本筋が通っている。有事が発生する度に「米国など関係各国と緊密に連絡をとる」と繰り返す日和見ばかりの日本とは大きな差だ。今回の長距離弾道ミサイル発射も1月の水爆実験の成功の後、正々堂々と発射を予告、その通りに実施してみせた。国際上の手続きは経ており、批判される筋合いではないはずだ。それなのに世界はなぜこんな憤る?
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●米東海岸が射程に

 まず、批判される第1の理由は、この長距離弾道ミサイルの射程だ。韓国の韓民求(ハン・ミング)国防相は今回のミサイルの射程は1万2000~1万3000キロメートルと推定し「射程だけなら米本土も驚異になる」と話している。北朝鮮は米本土まで到達する大陸間弾道ミサイルICBM)の実現が最終目標としていると見られるが、今回の打ち上げで米国の東海岸まで届く性能を誇示することに成功しているのだ。
 第2にこのミサイルが搭載した「衛星」の重さだ。前回(2012年12月)の発射時に比べ、2倍に増えたというのだ。事実ならミサイルが「衛星」の代わりに「爆弾」を積んだ場合、2倍の威力を持つことになる。しかも今年1月に北朝鮮は水爆実験に成功している。核爆弾の何倍もの威力を持つ水爆が製造できるようになったということは、これまで核爆弾の何分の1からの重さのものでも、相当の威力を持ちうるということ。この「ミサイル」と「水爆」を1本の線で結べば、核を搭載した長距離弾道ミサイルを北朝鮮がほぼ手中に収めつつある事実に行き着く。世界が恐れおののくのも分からないではない。

●透ける5大国のエゴ 

ただしだ。ここでいう「世界」とはいったい何なのか。今回、北朝鮮の行動を批判している急先鋒は米国と中国。そして英国、フランス、ロシアなどだ。ここで思い出して欲しい。NPT(核拡散条約)で、核保有を認められている国々の名前だ。そう、それは米国、中国、フランス……。今回、北朝鮮の長距離弾道ミサイルを批判している国々の名前とピタリ一致する。
ここで透けてくるのは「5大国を中心とした世界のパワーバランスを北朝鮮ごときが崩すことは許さない」という大国のエゴイズムだ。NPTでは5大国は核保有を認めるが、それ以外の国には保有を認めていない。理由は「これ以上の核兵器の拡散を防ぎ、世界平和を実現するため」。そんな不平等な話はない。要するに核保有は早い者勝ちというわけだ。この5大国だけが核の威力を背景に世界で我を通し、これに刃向かう北朝鮮は徹底的に叩く。そんなバカな話があっていいはずはない。
それなのに日本はなぜか、5大国と一緒に北朝鮮を批判する。そればかりか5大国とは別に独自の制裁措置も導入するというのだ。5大国に入れてもらえもしないのに、5大国中心のヒエラルキーを侵したとして番犬のごとく吠えているのである。
そんな国を相手にしていられないという北朝鮮の主張はもっともではないか。「信頼関係を築き、拉致問題を話し合う相手とは認められない」という言い分は日本同様、北朝鮮側にもあるのだ。
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●踏みにじった北朝鮮の誠意

実は今年1月の核実験の後、北朝鮮は日本に対し経済制裁を強化するのなら「拉致問題を巡る対話をやめる」と非公式に通告していた。正式な国交のない北朝鮮として最大限の配慮を日本にはらってくれたということだ。なのに日本は5大国の主張を代弁、経済措置強化とともに「(北朝鮮は)断じて容認できず、北朝鮮に厳重に抗議し、強く非難する」という決議を衆参両院の本会議で採決してしまった。日本にとって何のメリットもない「雄叫び」を上げ、その見返りに拉致問題のパイプを寸断されてしまったのだ。いったい国会議員は何をしてくれているのだ。国会議員自らが国益を損なってどうする。
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●櫛名田姫(クシナダヒメ)はまだ泣いている

そもそも、今回のミサイルは沖縄の上空をかすめた程度で、日本とは全く関係のない南洋への飛んだ。日本を狙っていなかったことは明白だ。それなのに北朝鮮への批判を不必要に噴出させた。尖閣諸島はおろか沖縄近海すら中国に脅かされ、黙り込んでいる日本がだ。
これでは日本は「虎の威をかる狐」と下げすまれても仕方がない。グローバル化とは強いものを見極め、それについて回ることではない。国際社会で求められている役割を果たすことだ。今回、日本は毅然としてどこにも加担しない中立的な立場を維持する役回りだった。にもかかわらず必死で大国にこびる日本は実にさもしい。櫛名田姫はここでもやはり泣いている。(了)

※Et alors?(仏)…「エ・アロール?」日本語で「それがどうしたの?」の意。