琴言譚®︎[きんげんたん]

今、救世主なら語る

狼は羊の皮をかぶって忍び寄る

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    人類史上初めての原爆投下という悲劇を被った日本。投下の場所が広島と長崎だったのはなぜかご存じか。答えはその地名にある。「広島」は昭和天皇である「裕仁(ひろひと)」、「長崎」はその皇后である「良子(ながこ)」を象徴する地名。だからこそ、そこに原爆が投下されたのだ。その広島をケリー米国務長官が訪問するというのだが……。

    岸田文雄外相によるとケリー国務長官が広島を訪れるのは11日。主要7カ国(G7外相会合に関連して平和祈念公園を訪れ、公園内にある原爆慰霊碑に献花をする予定だという。原爆資料館も視察する。ケリー米国務長官は米閣僚として初の訪問で、岸田外相は「世界の指導者に被爆の実相に触れてもらうことは、核兵器のない世界を目指す機運を盛り上げるうえで大変重要だ」との期待を表明している。

確かにその通りである。広島に集結する主要7カ国はドイツを除けば大半が原発大国であり、かつ大量の核兵器を持つ国々。核弾頭数は筆頭の米国が7000以上、次いでフランスが300、英国も200以上だ。そんな核まみれの国々が日本に集まり、本当に核兵器のない世界を目指し協力することで動きだすなら、世界は変わっていくだろう。岸田外相は核軍縮・核不拡散に焦点を絞った「広島宣言」を出す方針だが、実質的で現実味のある内容になることを期待したい。
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とりわけ注目したいのは米国だ。大統領のオバマ氏は2009年4月のプラハでの演説で「核兵器のない世界」を目標にかかげ、その年の12月にはノーベル平和賞を受賞した。核安全保障サミットも主導し、今年4月には50カ国以上の首脳らを米国に招き核テロ防止を「永続的な優先課題」と位置づけた声明を採択している。5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)時にはケリー国務長官の進言を受け、現職大統領として初めて広島入りする可能性もあり、世界は米国がけん引しながら核軍縮に向け動き出したように見える。

ところがだ。表のパフォーマンスとは裏腹に世界は核軍縮どころか、着々と軍拡に動いている。その証拠となるのがプルトニウムの保有量だ。プルトニウム核兵器にはなくてはならない原料だが、国際核物質専門家パネルの調査によるとこのプルトニウムの保有量が世界で増えているというのだ。例えばオバマ大統領が安全保障サミットを初開催した2010年末時点のプルトニウムの量は496トン。これが2014年には504トンにまで増えた。増加量は8トン。1トンで核兵器約200発が製造できるというから、たった4年程度で1600発もの核兵器がこの地球上で増えてしまった計算になる。表面的には軍縮を唱えながら、裏では核戦争の準備が着々と進んでいるというわけだ。

ならば日本はどうするか。ここで気をつけなければならないのは米大統領選の共和党候補指名争いで首位に立つドナルド・トランプ氏の発言。日本からの駐留米軍の撤退とともに日韓の核武装を提案しているのだ。米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューで「米国第1(アメリカ・ファースト)」と名付けた外交政策を発表したが、ここで「米国の力がこのまま弱まれば(日韓は核を)を持ちたいと考えるだろう。日本が北朝鮮の核の脅威に直面するのなら核の保有は米国にとっても悪いことではない」と発言している。日本の核兵器保有を容認または推進しているわけだが、もし本当に日本が核武装するなら中国、北朝鮮に核開発の大義を与えることになる。アジアはたちまち軍拡競争に突入するだろう。何よりも自衛の範囲を超え日本国憲法9条に抵触、世界の信用を失う。トランプ氏の発言の裏にはかなりの米国の政財界人の意向があると推測されるが、まかり間違っても米国の誘導に乗ってはならない。

核戦争は穏やかに静かに忍び寄る。平和を装いながら罠をしかけてくる。その舞台に広島がなってはならない。世界で類を見ない犠牲を払い、無差別に人を殺す核兵器の酷さを白日にさらした広島である。昭和天皇の名にその音(おん)を重ねる広島が、核戦争を企てる者どものパフォーマンスの場になってはならない。
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日本よ、全身の神経を研ぎ澄まし、八岐大蛇(やまたのおろち)の策略を見抜け。狼は羊の皮をかぶって忍び寄る。(了)