琴言譚[きんげんたん]

今、救世主なら語る

東電よ、奇跡を知れ

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原子力規制委員会が6月28日、東京電力の福島第1原子力発電所を取り囲む地下の「凍土遮水壁」を全面凍結させることで大筋合意した。これまで凍結させずに残していた1カ所を凍結させ、福島第1原発を完全に「凍土遮水壁」で取り囲む。この「凍土遮水壁」のおかげで原発への地下水の流入は大きく抑制される。これで事故処理は1歩前に進むと専門家はいう。しかし果たしてそれは本当か?違う。逆だ。全く逆だ。

 

●この瞬間にも放射能水は漏れる
130トン――。たった1日で福島第1原発から排出される汚染水の量だ。2011年3月に起きた事故で、冷却不能となった核燃料(デブリ)が原子炉を突き破って落下。そこに地下水がどんどん流れ込み、結果として放射性物質を含んだ汚染水が1日130トン排出されているのだ。2トントラックで65台分、ドラム缶で換算すると650本もの汚染水がたった1日で増えていく。放射能を含んだ大量の汚染水が今、この瞬間にも流れ続けているわけだ。
この問題にどう対処すべきなのか。政府が出した答えが、「凍土遮水壁」。福島第1原発に地下水が流れ込まないようにするため、海側遮水壁で深さ30メートルの鋼管約600本を地下に打ち込み、この鋼管を凍らせることでその周辺の土も凍結、壁をつくってしまうやり方だ。日本ならではの高い建設技術なのだが、どこか幼稚な発想のようにも思える。

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●冷えなくなる核燃料(デブリ
もともと「凍土遮水壁」というのは、トンネルを掘削する際の技術だ。原発への応用については「効果は疑問」との見方は少なくない。ただ、いったん効果のほどは置くとして、仮にうまく地下水の流入をシャットアウトできたとしても、果たしてそれは良いことなのか。東京電力によると全面凍結により凍土遮水壁が完成すれば、地下水の流入は100トン以下に減らせるという。これが良いことなのか。これは疑わしい。
確かに地下水の流入がとまればその分、放射能を含んだ汚水の量は抑えられる。当然だ。しかし、今度は反対に核燃料(デブリ)の問題が浮上する。ここが分かっていない。せっかく大量の地下水で核燃料(デブリ)が冷やされ、小康状態を保ってはいるのに、地下水がとまれば再び息を吹き返す可能性があるのだ。
福島第1原発が核爆発を免れたのは全くの天恵だったと言っていい。電源装置の喪失で冷却装置が作動しなくなった場合、通常なら異常な高温状態となった核燃料(デブリ)が原子炉内で爆発しても仕方がない。菅直人首相(被災当時)が狂ったように東電の現場に要請したベント(空冷)くらいでは本来、とても追いつかない。
今回、核爆発を免れたのは奇跡なのだ。たまたま原子炉が爆発する寸前で底にヒビが入り、そこから核燃料(デブリ)が溶け落ちた。おそらく核燃料(デブリ)は地下に到達したところでとまり、そこに冷たい地下水が流れ込んでいるはずだ。福島第1原発の下にはもともと地下水の水脈があり、これが自然の冷却装置として機能しているのだ。恐ろしき偶然だと言える。
なのに政府は「凍土遮水壁」で、「天然の冷却装置」の作動をとめる。核燃料(デブリ)を冷却していた地下水をとめる。本当に大丈夫なのか。いったん落ち着いた核燃料(デブリ)が暴れ出しはしないか。
そもそも今、デブリがどこにあるのか、固まっているのか、飛散しているのか、どういう状態にあるのか、何1つ分からない。完全に人知は越えている。なのに小学生の思いつきのように「きたない水がでるからとめちゃう」と言って、せっかくの天恵である地下水を遮ってしまって大丈夫なのか。
人間の知恵などいかに限定的か。それを思い知るべきだ。おそらく深さ30メートル程度の壁で地下水の浸入が計画通り止まるとは思えないが、こうした思いつきの対処方法から試していかねばならないほど、原発の前に人間は無力なのである。
まず謙虚に考えることだ。そこから、すべては始まる。(了)