琴言譚®︎[きんげんたん]

今、救世主なら語る

あっぱれ国税庁

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    久しぶりの快挙である。国税庁が約50カ国・地域の金融機関にある日本人の口座情報約40万件を入手したという。租税回避地タックスヘイブン)の情報も含まれており、国境をまたぐ資産隠しなどの解明につながる可能性がある。税金の支払いは国民の三大義務の1つ。財政逼迫(ひっぱく)の国難の時に、そんな輩(やから)を野放しにしておいていいはずはない。


 ●国税庁が租税回避情報を把握
今回、国税庁が日本人の口座情報の捕捉に成功した背景には経済協力開発機構OECD)が情報開示の新制度を立ち上げたことがある。国際的な脱税や租税回避を防ぐための新制度をOECDが最近になって整備、これを日本の国税庁が見逃さずに素早く動いて情報を入手した。「新しく制度ができれば、使ってみたい」というのは官僚の習い性ではあるが、それがいい方に転んだ格好だ。海外に資産を「疎開」させている顧客の氏名、住所、口座残高、利子・配当の年間受取総額などの情報が含まれているもよう。
 日本に居住しておきながら日本に税金を払わないのは不届きなことこの上ない。ただ、2016年に公表された「パナマ文書」のなかにはかなりの数の日本の経済人や著名人の名前が含まれていた。タックスヘイブンを利用し課税を逃れ、自分だけはぬくぬくと暮らすという芸当は一般のサラリーマンにはのぞむべきもないが、海外投資が増え、一国だけで富裕層の資産を把握するのが難しくなるなか、その数は着実に増えつつある。
日本では国外に5千万円超の財産を持つ場合、財産内容を記す「国外財産調書」の提出が義務付けられている。16年分の調書は約9千件にとどまっており、国税庁はCRSの情報と照合するなどして海外の「隠し資産」の発見に取り組むという。闇に消えていたお金が少しでも日本に戻り国の財政が潤えば、庶民の暮らしも少しは改善していくかもしれない。

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●偏る資産 
ただ租税回避と同時に、ここで問題なのは富の偏在だ。わざわざタックスヘイブンまで利用して隠したくなるほどの莫大な資産を手にできる人間がいったいなぜ存在するのだろうか。国際NGO「オックスファム」によると世界で1年間に生み出された富のうち82%を、世界で最も豊かな上位1%が独占しているという。経済的に恵まれない下から半分(37億人)は財産が増えなかったが、上位1%の資産総額は株価の上昇などによって7625億㌦(約84兆円)も増えた。
 何千億円、何兆円もの資産を手にすれば、その半分を国にもっていかれるとすれば確かに腹立たしいかもしれない。隠したくなるのは人情というものか。それよりもおかしいのは、1年間、ただ寝転がっているだけで、それだけのお金が懐に転がりこんでくる富裕層が存在するシステムだ。もちろん頭を使っただろうし、リスクをとっただろう。だとしても何か間違っている。
 要は一定の層だけに富が集中して流れ込むしくみを野放しにしている国の首脳陣たちにも責任があるということだ。庶民にお金が流れるしくみを徴税と再分配という以外に考えていくべきだ。もっともその国の首脳陣たちと富裕層が一枚岩ならのぞむべきもないが……。    (了)

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