琴言譚®︎[きんげんたん]

今、救世主なら語る

1億円のランチはもう売れない

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ウォーレン・バフェット氏〉

1億円のお金を払っても、ステーキランチをともにしたい人などこの世の中にいるのだろうか。実は1人いる。米国の天才投資家ウォーレン・バフェット氏(88歳)だ。毎年、バフェット氏とのランチ券が1億円以上で落札されるという。ただ、今年はどうか。ひょっとして、もうランチ券は売れないかもしれない。なぜならバフェット氏が天才ではなくなったからだ。「そろそろ投資で、お金は儲けられなくなってきた」。そういってお金を預けてくれた人に返還するという。

 投資家とはいったいどういった種類の人々なのか。簡単に言えば富裕層からお金を預かり、それを増やして返す。いわゆるお金持ちのお金の運用を任される人びとだ。バフェット氏もその1人。米投資会社バークシャー・ハザウェイをバックに持ち、この会社に集まってきたざっと12兆円のお金を独特の嗅覚と才覚で儲かるビジネスに投資する。50年間にわたって勝ち続け、複利計算で約20%を上回るリターンを出した。まさに天才だ。

 

●バフェット敗北

しかし、ここに来てそんなバフェット氏も音を上げた。「もう儲かる対象がない」と。12兆円にまで膨らんだ投資資金の一部は、株主に返還する方針であることを毎年恒例の「株主への手紙」で明らかにした。
投資家としては事実上の敗北宣言だ。すべてが高くなり仮に今、企業を買収しても、投資したお金に見合うだけのリターンが期待できないのだという。現に過去に投資した加工食品大手クラフト・ハインツなども2019年10~12月期決算で想定外の減損を出し、バークシャーは30億ドル(3000億円強)の損失計上を余儀なくされた。
金持ちの金を預かり、弱った企業をM&A(合併・買収)で傘下に収める。そのうえでリストラなど経営効率化を断行、収益力を高めて株価が高値になったところで売りさばく。そのサイクルが回らなくなった。

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●今、ここにある危機
そんな投資家の仕事が回らなくなったところで、「そらみたことか」というだけのことかもしれない。ただ、ここで見逃してならないことがある。「金余り」と「経済成長の鈍化」だ。このふたつの危機が今、同時進行で世界を覆い始めている。それが天才の名を欲しいままにしたバフェット氏すら、戸惑わせている。誰もいったい世界のどこに成長の芽があるのか分からないのだ。
いったいなぜこうなってしまったのか。振り返るべきは2000年頃。米国を始めとした先進国は地道なもの作りの道を捨てた。代わりの傾倒したのが金融緩和だ。もの作りを捨てれば国の成長はとまる。なのに必要もないお金を刷り続け、架空の経済取引で刹那的に儲けようとしたツケがここに来て表面化してきた。
翻って日本。日本はまさに世界の縮図だ。構造改革という美名のもとにもの作りを破壊し、それを外資にたたき売った。そのうえで金融を緩め「リスクをとったものにこそリターンがある」と金融緩和にひた走った。当然、日本も行き詰まった。
世界も日本も人々は息苦しさを感じはじめている。さあ、ここでどうするか。吹きたまった鬱憤(うっぷん)が3回目の世界大戦に人類を駆り立てなければいいのだが……。(了)