琴言譚®︎[きんげんたん]

今、救世主なら語る

スマートシティは『新首都』で開け

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 地下鉄の駅が浮いている――。信じられるだろうか。東京23区内の地下鉄の駅のうち、いくつかの駅舎がプカンと水の中に浮かんでいるのだ。もともと沖積平野(ちゅうせきへいや)を埋め立て開発した東京の地盤は相当程度、ぬかるんでいる。そこに無理に地下鉄の駅を建設、アンカーやオモリをつけて何とか地中にとどめているのが実態なのだ。もはや東京は限界。スマートシティをつくるなら、新首都でつくれ。

 

●都市の高度情報化で経済復活
 9月14日。新政権が発足する。最大の関心はアフターコロナ。戦後最悪の状況にまで落ち込んだ経済をどう立て直すのか、新政権はその答えを求められることになる。答えの1つとして想定されるのがスマートシティの構築だ。AI(人工知能)やITC、5Gなど最先端の情報技術を駆使して、東京を生産性の高い都市につくり変えようという戦略で、ここに来て急激に大きなうねりとなりつつある。これは半分、正解、そして半分は間違っている。
 新型コロナウイルスの感染拡大で企業はリモートワークの導入を余儀なくされた。そのおかげで、人は情報通信の環境さえ整っていれば、どこでもいつでも仕事ができることを確認できた。新しい働き方の時代だ。確かに我々は、これに合わせて街を変えていかなければならない。その造り替えに成功、街のスマートシティ化を実現することができれば、日本は再び経済大国として世界で存在感を示すことができるだろう。
 ただ、問題は場所だ。お金を投じるべき対象は東京ではない。東京には、もはや開発する土地がない。スペースがない。新しい開発に耐えられる体力が残っていない。東京駅も上野駅も放置しておくと駅舎が、増え続ける地下水の浮力に耐えきれず、浮かび上がってしまうところまで来ている。東京駅の駅舎は1本あたり100トンの浮力に耐えられるアンカーを130本、地盤に打ち込むことで対応し、上野駅はプラットホームの下に3万トンのオモリを置き、地下水の浮力に対抗させている。そんな状態のところにいくらお金を注いでも開発効率は極めて悪い。

 日本はもともと遷都の国だ。例えば710年に平城京に都が移り、その後794年に平安京に遷都するまでの奈良時代だけを見ても都は6回動いている。日本は時代が切り替わるタイミングで、遷都を行ってきたのだ。災害に備えたリスク管理という意味だけではなく、新しい時代を迎え入れるタイミングで新しい時代の器をつくってきた。今がその時である。新政権はこれを政策として掲げるべきだ。
 国際都市、東京に存続の意味がなくなったと言っているわけではない。経済都市として東京はそのまま発展させ機能させていけばいい。商都だ。そして首都としての機能は切り出し、岩盤が強固な場所に移し、新しい首都を形成する。

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●移転効果300兆円
 そもそも首都移転は国会で決議済みである。1990年に衆参両院で「国会等の移転に関する決議」を議決し、「首都機能移転を検討する」という基本方針はすでに決まっている。移転先候補地についても「栃木・福島地域」「岐阜・愛知地域」、移転先候補地となる可能性がある地域として「三重・畿央地域」と選定作業も進んでおり、世論の盛り上がりとは裏腹に水面下で準備は着実に整いつつある。
 海外でも遷都の例は決して珍しくはない。米国のワシントンとニューヨーク、カナダのオタワとトロント、オーストラリアのキャンベラとシドニーなど首都と最大都市が異なる国は多い。ドイツもベルリン・ボン法によりベルリンとボンに分けて行政機関を設置している。ベルリンとボンは直線で約450キロメートル、鉄道・高速道路では600キロメートルの距離だが、連邦議会はベルリンに完全に移転、連邦政府の省庁についても、中核部分をベルリンに移転させている。隣国の韓国もまた遷都を実施している。
 遷都はそれ自体が巨大な公共工事であり経済を活性化させる。ただ、それだけはない。最も大きいのは首都移転に伴う経済波及効果だ。仮に56万人の都市形成を実現させたとすると、直接の経済効果だけに限定して試算したとしても民間と公的部門の合計で32兆円。今後のITやAIの波及効果も含めて考えると全体では200兆円から300兆円にも達するという。これは三菱総合研究所の試算だ。首都機能分散を進めたマレーシアの事例などを参考に算出しているものだが、実際にマレーシアは1991年に情報化構想「マルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)」と銘打ち、新行政都市「プトラジャヤ」を建設、2015年の経済成長率は4.9%、2017年まで4~6%の高い成長をとげた。それをもとにしている。
コロナは確かに負担である。人々の心も荒廃しつつある。しかし、同時にチャンスでもある。小手先ではなく、思い切った抜本的な改革のチャンスなのだ。最優先すべき課題が首都移転。本気で考えるべき時である。(了)

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