琴言譚®︎[きんげんたん]

今、救世主なら語る

中国の舌は米国の舌

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 中国が南シナ海で領有権を主張する「赤い舌」。9本の破線を使って海を囲い込むため「9段線」とも呼ばれる。その舌の内で今、中国の動きが活発化している。岩礁を7カ所も埋め立て人工島や滑走路まで建設するなど自由自在だ。いったい米国は何をしているのか。聞こえてきたのは米国と中国との親しげなおしゃべり。「土曜日には何をして過ごすんですか?」というイージス艦から発した言葉だった。

▼まやかしのけん制 
中国の赤い舌は、南シナ海で中国が領有権を主張する境界線のこと。地図上で見るとまるで中国大陸から垂れ下がった舌のように見えるので赤い舌とも呼ばれる。大きさは巨大でベトナムやフィリピンの領海を侵食し、南シナ海のほぼ全域を占める。もしこの海域が中国に牛耳られてしまえば、日本も安閑とはしていられない。
 自国で石油を生産できずにいる日本にとって、この海域は中東からの重要な原油の輸入ルート。東南アジアに工業製品や電子部品を搬送する道でもある。仮にこの海域を中国に押さえられれば、貿易立国である日本の生命線が危機にさらされる。

 米国も手をこまぬいているわけではない。9月24日、中国の習近平国家主席が訪米した際、オバマ大統領が側近だけの夕食会で、相当に時間をかけて南シナ海の人工島開発を中止するよう要請、これが物別れに終わるや、今度は米軍の派遣に踏み切っている。

 米国が軍隊を派遣したのは中国が領有権を主張する人工島の12カイリ(約22キロメートル)内。イージス駆逐艦ラッセン」を中国の了解なしに航行させたのだ。人工島付近をあえて「無断」で通過することで、その海域が中国の領有権が及ばない「公海」であることを主張するわけだ。中国の出方次第では新たな紛争に発展しかねない事態で、日本をはじめ世界のメディアは「ついに米国が中国の暴挙に業を煮やし動き出した」と沸いた。
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▼緊張感ないイージス艦
米軍も決死の覚悟だったはすだ。イージス艦内をミサイルの射程距離内で中国軍艦船がぴたりと追尾、一触即発の状況の状況が続いた。イージス艦内の緊張感が充満していたはずなのだが、英ロイター通信や米誌「フォーリン・ポリシー」、米紙「ディフェンス・ニュース」などによるとどうも違う。艦内はきわめて平穏だったという。そればかりか、人工島に向かうイージス艦とこれを追跡する中国軍艦船との間で実に砕けた会話がなされていたのだ。

 内容はこうだ。まず10月下旬。イージス艦は人工島のかなり近くにまで到達していたが、この時にイージス艦から中国軍艦船に向かって発信されたのは「土曜日には何をして過ごすんですか。こっちはピザやチキンウイングを食べます。ハローウィンの催しも企画しているんですよ」という言葉。「事態があまりに緊迫していたため、暴発を防ぐための対応」との見方もあるかもしれないが、このイージス艦からの問いかけに中国軍艦船に親しげに応答があったことから考えれば、やはり状況はかなり弛(ゆる)んでいる。

 そして10月27日、イージス艦はついに人工島の12カイリ内に入る。しかし、この時も中国軍艦船は「あなたは中国の海域にいます。何をしているのですか」とイージス艦に繰り返すだけだった。事態は悪化、紛争に発展する気配はまったくなかったという。そればかりか、イージス艦が12カイリ内での航行を終えた後、中国軍艦は「もうこれ以上、貴船にはついていきません。どうか快適な航海を。また会いましょう」と言い残し去っていったという。
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▼蜜月※の米中 
ここで日本が学ぶべきは中国と米国が1枚岩であることだ。米中は2014年、米国防省と中国国防省との間をホットラインで結び、すでにビデオ会議も実施できる態勢を整えている。「意図しない衝突を防ぐため」というのが表向きの理由だが、果たして本当にそうか。習近平首相とオバマ大統領は夕食会で本当に激論を戦わせたのか。そうではない。蜜月なのだ。
中国が領有権を主張する南シナ海の「赤い舌」はもともと国民党の中華民国が1947年に設定したもの。国民党を追い出した中国共産党がこの境界線を踏襲し、1953年から中国の地図に明記するようになった。さらにそこから人工島建設に至るまでにはベトナム軍と衝突、ベトナム国旗を掲げる兵士たちを撃ち殺し、強引に岩礁を奪う事件も起こし、今日にいたっている。その経緯をすべて米国は傍観し、黙認してきたのである。
その米国に集団的自衛権を掲げて尽くそうとする日本。中国のアジア支配を暗黙の形で支援する米国に、かしずく滑稽さを日本は認識しなければならない。中国も米国も腹は1つ。それはまるで八岐大蛇である。その大蛇の舌が今まさに日本をなめ回そうとしていることに気づかねばならない。(了)
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※【蜜月】(みつげつ)《honeymoon》
1 結婚して間もないころ。ハネムーン。
2 親密な関係にあること。「両派の―時代」
『 出典:デジタル大辞泉より』