琴言譚[きんげんたん]

今、救世主なら語る

聖子が便器の水を飲む日

 

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 第3次安倍内閣内閣改造で最大のサプライズの1つは野田聖子の入閣であることに異論はないだろう。ポスト安倍への意欲を隠さない異分子を身内に取り込み、「安倍下ろし」の芽を摘む安倍側の作戦に、あえて乗った格好の野田。手をこまぬいていれば安倍から岸田文雄への禅譲(ぜんじょう)※の流れは止められないとの読みが働いたことは間違いない。ならば、国務大臣の名に恥じぬ仕事をすることだ。帝国ホテルの便器の水を飲み干したあの日を思い出せ。

 
●家の掃除もせぬお嬢様
1983年、上智大学を卒業、得意の英語を生かそうと帝国ホテルに入った野田は新人教育係の先輩の行動に度肝を抜かれた。新人研修で客室清掃の指導を受けた時のこと、便器の清掃を終えた先輩が便器の水をコップにくんで飲んでみせたのだった。
野田と言えば、大蔵次官から参院議員を経て衆院当選9回の故野田卯一元建設相を祖父に持つ生粋のお嬢様である。それまで家の掃除すらしたことがなかったシンデレラだ。なのに、それがいきなり便所掃除となれば大変だ。素手でつかんだスポンジを便器に入れた瞬間、思わず吐いてしまった。
 しかし、さすがである。野田聖子はくじけなかった。数カ月後、自分であらった便器の水を先輩の前で飲んだ。その後は国際営業の仕事にも抜てきされとんとん拍子。まだ女性がビジネスの世界で受け入れられない時代に若くして頭角を現していった。
 その気骨は政界に転じても発揮される。最たるものが2005年、小泉政権が進めた郵政民営化への反対だ。野田は閣僚史上最年少の37歳で郵政相として入閣した経験もあって日本の郵便事業への造詣はなかなか深い。「日本の郵便の仕事は民間に任せず国で守るべき」との主張を貫き、自民党を離党した。その後、自民党に復党を果たすが信念を曲げない性格は変わらず、安倍に対してもはっきりとものを言ってきた。
 その野田聖子の入閣なのだ。見ものである。安倍から入閣の打診があった際、総務相を自ら指定したというから、その仕事ぶりには期待したい。

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●国を忘れた仲間主義
ただ、入閣直後の野田の「卑怯(ひきょう)発言」にはやや違和感を感じる。その内容とは「非常に苦しんでいる時に、いたずらに今いる(安倍晋三自民党)総裁を仲間が批判して政権を弱くするのは卑怯(ひきょう)なことだ」というもの。
さっと聞くと野田らしい潔い発言のようにも響く。しかし、よく考えて欲しい。なんと実に身びいきで、身勝手な発言であることか。国政を預かるトップの人間、つまり安倍が順境にあろうと逆境にあろうと国民には関係のない話である。是は是、非は非だ。国を危うくする判断なら仲間であっても正々堂々、否というべきである。「仲間なんだから」という発想は、安物の学園ドラマでもあるまいし、さっさと捨ててもらいたい。
 野田氏の発言から見えてくるのは、政治家の完全な国家意識の欠如、緊張感の欠落である。国務大臣である以上、日本国の「国務」をゆだねられている身であることを肝に銘じてもらいたい。
 今、安倍政権にまつわる国民の最大の懸念は憲法改正の動きである。加計学園問題などで政権への支持率が危険水域とされる30%を割り込むようなことがなければ、安倍は今秋の臨時国会改憲原案を提出する予定だった。そして来年の通常国会で発議し、その秋には国民投票に持ち込み、悲願の憲法9条改正という運びだった。この改憲カレンダー通り進むべきか、進まざるべきか――。安倍は今、ハムレットの心境にあるのかもしれないが、それは国民も同じである。
 日本は戦争をしない国。その箍(たが)をいったん外してしまえば後は奈落だ。国民も憲法改正議論を固唾をのんで見守っている。野田も仮にも一国の宰相の座を狙うと公言するなら浅薄な雑音を一気に飲み干してもらいたい。かつて帝国ホテルの便器の水を飲み干した時のように。(敬称略)【了】

 

禅譲(ぜんじょう)→天子(ほとんどの場合、皇帝)が、その地位を血縁者でない有徳の人物に譲ることである。実際には、歴史上禅譲と称していても譲られる側が強制して行われていることが多い。また、天子に限らず、比喩的に地位を平和裏に譲ることを禅譲、無理やり奪うことを簒奪と呼ぶことがある。『ウィキペディアより』