琴言譚®︎[きんげんたん]

今、救世主なら語る

郵便局員は金持ちの奴隷か。郵政民営化の悲しい結末

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かんぽ生命保険の不適切販売問題を受け日本郵政、かんぽ、日本郵便の3社長が12月27日、引責辞任を表明した。社員40万人の巨大グループの経営トップが総退陣する異例の事態。いったい何が起こったのか。小泉純一郎元首相は「民営化が不徹底だった」と発言したが本当か。違う。民営化こそまさに今回の問題が発生した原因であり、追求すべき本質なのだ。


●弱者が弱者を叩く
この問題はつくづく悲しい。悲しすぎる。なぜなら「弱者」が「弱者」を傷つけてしまったからだ。しかも「弱者」が「弱者」を傷つけることを「強者」に強いられた。そこが悲しい。
ここでいう傷つけられた側の「弱者」とは、1人で4つも5つも保険に契約させられた老人。そして傷つけた側の「弱者」とは老人を騙して無理矢理、契約をさせた郵便局員だ。弱者がより弱い弱者を叩き、傷つける――。これほど淋しい風景はないではないか。
明確にしておきたいのが今回、退任した日本郵政グループ3トップは決して弱者ではない。老人を傷つけた弱者というのはその末端で仕事をさせられていた郵便局員たちだ。かんぽ生命から保険の販売を請け負う日本郵便は、全国2万以上の郵便局で新規に獲得する保険料支払額について、局や個人ごとに厳しい「ノルマ」を課してきた。その「ノルマ」の結果として契約者が不利益となった疑いのある契約が約18万3000件も発生したのだ。
もともと郵政民営化前、郵便局員に「ノルマ」らしい「ノルマ」など存在しないに等しかった。仮にあったとしても今ほどの厳しさはなかった。上司が部下を怒鳴りつけ、精神的に追い詰めながらノルマを達成させるような無茶はなかった。追い詰められた末端の郵便局員は、さらに弱い老人を騙し契約をとる。郵便局員も心では泣いていたに違いない。
だいたいそうまでしてノルマを達成しても、その郵便局員が年収3000万円も4000万円ももらえるわけではない。末端の郵便局員を怒鳴りつけていた上司、郵便局長にしてもそうだ。それほど高い年収を得ていたわけではない。では誰が得をしたのか。

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●資本主義とは金持ちが勝つ
結局、老人から保険料として吸い上げたお金は「強者」に回る。すべてスーテークホルダー(利害関係者)、つまり株主にその利益は流れていくだけなのだ。老人たちを騙して儲けた利益は、巡り巡ってかんぽ生命保険の株主に配当として回っていく。それが株主上場、つまり民営化ということの本質なのである。
当然だ。会社を上場して民営化すれば、株主の期待に応えることが第一義となる。コンプライアンスだ、情報共有だなどと生ぬるいことを言っている暇はない。資本主義なのだから、まずは儲けること。そして資本家、ここでは株主に配当を還元すること、それが何よりもまして優先される。末端の郵便局員はそのお金持ちがさらにお金持ちになるための先兵として駆けずり回ったに過ぎない。
つまりは今日の結末は郵政民営化が決まった時から分かっていたこと。郵便局員は田舎のおじいちゃん、おばあちゃんの味方でなければならなかったのに。郵政民営化は、郵便局員とお年寄りの関係を割き、敵同士にしてしまった。
悲しい結末なのである。(了)